2022 年 71 巻 1 号 p. 10-19
病理標本の適正保管は,がんゲノム医療や臨床治験など継続的な患者治療において重要な課題である。通常,薄切後のパラフィンブロックは薄切面に薄くパラフィンを塗布し,組織を損傷・酸化から保護している(以下:ブロックカバー)。しかし,組織の再利用は,切削による標本の浪費が必至である。今回,新たに水溶性パラフィンを利用した,荒削り不要なブロックカバー法を検討した。材料は扁桃や肺,マルチプルコントロールのパラフィン包埋ブロックを用い,水溶性パラフィン(新法:以下HPC法)と従来のパラフィンカバーと未処理で比較した。室温暗所保管後1,3,6か月,3年後に薄切とカバーを行った。HPC法のパラフィン除去は流水水洗と氷上静置,従来法はミクロトームで荒削り後に切片を作製しHE染色と免疫組織化学染色で影響を評価した。ブロックカバーの有無は,免疫組織化学染色に影響を与える重要な因子であることが明らかとなった。水溶性パラフィンは傷,酸化等から組織を保護した。水溶性パラフィンの除去は流水5~10分あるいは氷上30分で可能,染色性は6か月後まで安定であるが,3年後にMIB-1染色減弱とDIN値漸減が生じた。水溶性パラフィンの繰り返し利用は,吸水により効果を失うと推測され,常に新調した試薬の使用が重要である。HPC法は簡便で,表面切削が来す組織損失が少なく,針生検の様な微小検体で特に有用である。従って,新たな組織保護方法として,保管条件などの検討を重ね日常業務に展開したい。