2026 年 75 巻 2 号 p. 420-427
Tall cell carcinoma with reversed polarity(TCCRP)はWHO分類第5版で初めて記載された稀な乳癌の組織型である。組織学的には,核極性の反転を示す円柱状腫瘍細胞が充実乳頭状胞巣を形成することを特徴とする。またダイレクトDNAシーケンス法によりIDH2 p.R172ホットスポット変異が高頻度に検出されることが知られている。今回,TCCRPの1例を経験し,細胞像と組織像を中心に報告する。症例は40歳代女性で,マンモグラフィーと超音波検査にて左乳房に腫瘤を指摘された。穿刺吸引細胞診では,立方状から円柱状の異型細胞が多数出現し,個々の核には核溝や核内細胞質封入体が観察された。また核極性の反転を示す異型細胞の集塊を認めた。針生検組織では,異型細胞は充実乳頭状胞巣を形成し,核極性の反転を認め,典型的なTCCRPの所見を示していた。乳房部分切除検体の腫瘍捺印細胞診では,穿刺吸引細胞診と同様の細胞像であった。乳房部分切除検体の組織診ではTCCRPの組織像を示し,脂肪組織への浸潤を認めた。腫瘍部のホルマリン固定パラフィン包埋切片より抽出したDNAのダイレクトシーケンス法によりIDH2:c.514A>G(p.Arg172Gly)変異を検出した。本例では,TCCRPの組織学的特徴が細胞所見にも反映されていた。TCCRPの細胞像に関する報告は極めて稀であり,さらなる症例の蓄積と解析が望まれる。