2019 年 39 巻 p. 91-99
目的:視覚障害によってCharles Bonnet症候群を呈した高齢者の経験について,身体知覚の側面から解釈することである.
方法:視覚障害とそれに伴う幻視・抑うつをもつAさんに対して参加観察と非構成的インタビューを行い,AさんのナラティヴをMerleau-Pontyならびに伊藤の身体論に依拠して解釈した.
結果:Aさんの経験を解釈することで,視覚障害に伴う幻視の特徴や喪失体験の苦悩を受容する過程として【視覚に対する思考や感情の影響と幻視のはじまり】【重なる喪失体験による侵襲的な幻視と抑うつ】【感覚の代償】【他者を通して芽生えた生きる力】【喪失したものの現れ】【運命の引き受け】という6テーマが導き出された.
結論:視覚には当事者の思考や感情が関与しており,状況によって幻視・抑うつが変化することが示唆された.そのため,当事者の苦悩を理解した上で,生きることの意味の探求や生活の再構築などを支援しながら,障害や喪失の受容のプロセスを支えていくことが重要である.