におい・かおり環境学会誌
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特集(害虫制御に関わる香り物質)
社会性アブラムシのフェロモンと巣のにおいを利用した巧みなコミュニケーション術
柴尾 晴信
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2012 年 43 巻 1 号 p. 2-11

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抄録

アリやハチやシロアリのように,一部のアブラムシは高度な社会生活を営む社会性昆虫として知られる.社会性アブラムシでは,「兵隊」と呼ばれる利他個体がコロニーの防衛やゴール(巣)の清掃を行っている. ハクウンボクハナフシアブラムシは,不妊の兵隊階級を産生する社会性アブラムシである.本種の兵隊は,若いうちはゴール内で清掃を行い,老齢になると危険なゴール外での防衛に従事するという齢分業を行う.筆者らは,本種において, 死体認知フェロモン(linoleic acid)と警報フェロモン(trans-β-farnesene)の2種類のフェロモンと,ゴールのにおい成分から警報シグナル(trans-2-hexenal)とスウィートホームシグナル(linalool)の2種類のアレロケミカルを同定し,これらの情報化学物質が巣仲間の動員に重要な役割を果たすことを明らかにした.脱皮後間もない新兵隊は死体認知フェロモンに高い応答性を示して清掃行動を行った.若い兵隊は主として死体認知フェロモンと警報シグナルに応答して清掃行動と攻撃行動を示した. 老齢兵隊はに主に警報フェロモンに応答して攻撃行動を行った.このように兵隊は日齢によって,フェロモンやアレロケミカルに対して異なる行動閾値をもつために齢分業が生じることがわかった.興味深いことに,コロニー内の各フェロモン・アレロケミカルの濃度が上昇すると,どの日齢の兵隊も全てのタスクをこなすようになった.ゴール傷口から出る警報シグナルには警報フェロモンへの応答を強める効果があったのに対して,ゴール特有のにおいであるスウィートホームシグナルには警報フェロモンの働きを緩和する効果が見られた.本稿では,本種の「フェロモン」と「巣のにおい」を介した巣仲間の動員と柔軟な分業システムについて考察する.

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© 2012 (社)におい・かおり環境協会
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