抄録
相似図形の面積に関して,「図形をk倍に拡大すると面積はk^2倍になる」というルール(2乗倍ルール)が存在する。それは,「縦×横=面積」という公式の変数操作により導出されるものであるが,基本的な幾何的図形の面積学習後でも2乗倍ルールを適用した解決がなされにくいことが先行研究により示されている。本研究では,そのような公式変数の操作を具体的な物としての操作に変換して教示すること(具現化)が適切な面積判断を促進させるか否かについて,大学生を対象に検討した。具体的には,拡大前後の図形に丸粒シールを敷きつめ,各図形に敷きつめられた粒の個数を比較させることにより面積変化を捉えさせた。短大生28名を対象に検証した結果,適切判断は図形の拡大場面の一部において促進されたが,長さの数値を示した拡大場面や図形の縮小場面では必ずしもそうではなかった。そしてこの課題成績の違いは,事前の面積判断で定量的側面への着目にとどまったか,定性的側面にまで着目しえたかに依存することが示された。ルールに依拠した適切判断のためには,具現化による定量的な面積理解を定性的な変数間関係として捉えなおす段階が必要となることが示唆された。