抄録
英語における日本人的な誤りについては,和文英訳が多く取り上げられてきたが,本研究では英文和訳を取り上げた。Can you hear me?やListen to him.などの文は,簡単な文であるが,逐語的な訳では不自然な日本語になる。本研究ではこのような文を学習者が正しく訳すことができるかを調べた。参加者は専門学校生であった。実験1 (n=17)では,先のような英文に対する和訳を求めたところ,正しく訳せない解答(無記入,過度な省略,文意の取り違え)が多かった。実験2 (n=15)ではCan you hear me?を「私の『声』が聞こえますか」のように必要な言葉を加えて訳した文を提示し,正誤判断を求めた。この文は正しい意味を表しているが,実験参加者にはこのような文を「誤りである」と判断する者が多くいることが示された。また,両実験で教材文を作成して介入を行った。教材文では,池上(1984)を援用し,英語の「人間志向」と日本語の「モノ/コト志向」についての説明を行った。例えば,英語ではWe are closed on Sundays.という表現も、日本語では日曜日は閉店であることを意味するということを説明した。介入の結果,事後には正しい訳ができる(あるいは語を加えた訳であっても正しいと判断できる)者が大幅に増加した。