本研究は,児童の聴くという行為が,課題構造の異なる話し合い場面に応じてどのように異なるのか,バフチンの述べる他者の言葉との「内的対話」に着目し,対象児の発言から明らかにすることを目的とした。小学 5 年生2 学級から 1 人ずつ対象児として頻繁に発言する児童を抽出し,国語科と社会科における対象児の発言を検討した。結果,以下 3 点が明らかとなった。(1)単元固有の知識が存在し,その獲得・共有に向かう話し合い場面で,2 人の対象児は自分の既有知識や経験と関連づけて他者の発言を聴いていた。(2)多様な考えを交流し,理解の精緻化に向かう話し合い場面では,一方の対象児はテキストとの「対話」の中で形成された自己のテキスト理解と他の児童による発言を関連づけながら,話し合いの流れを捉えて聴いていたが,もう一方の対象児は話し合いの流れを形成する複数の先行する発言や,先行する発言に加え共有されたテキスト・資料の言葉といった複数の他者の言葉と同時に「(内的)対話」することを困難としていることがうかがえた。また(3)課題構造が同じ話し合い場面でも,聴くという行為の特徴は異なっており,教師の応答の違いや先行する発言内容の違い,あるいは参加者間で共有されているテキストの有無など,各場面における社会文化的状況の違いが聴くという行為に影響していることが推察された。
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