質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
10 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 姿勢制御と面の配置の知覚に着目して
    山﨑 寛恵
    2011 年 10 巻 1 号 p. 7-24
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/07/08
    ジャーナル フリー
    四足性から二足性への姿勢の移行期に頻繁に観察されるつかまり立ちが,環境構造とどのような関わりを持っているのかについて,環境を面とその配置として記述する生態幾何学的方法を用いて検討した。1 名の乳児の 8~11ヶ月齢にわたる日常場面でのつかまり立ちを観察し,垂直方向にある面に対する上肢の最初の接触,つかまり立ち開始後の四肢の経路,立位後の姿勢の点から場面毎に記述した。その結果,上肢の最初の接触は手を最大限に伸ばすと「ぎりぎり」届くか届かないか,といったところで行われる傾向があること,つかまり立ちやそれに先行するハイハイを通して経験する,垂直方向の配置に対する見えの変化が,つかまり立ちの出現そのものに関わっている可能性があることが示された。加えて,四肢の動きが識別される環境の特徴に関係し,その識別自体にも動きが伴っていることも明らかになった。全事例の結果から,つかまり立ち動作における知覚の役割の重要性が確認された。
  • 容器の発見と利用の過程
    青木 洋子
    2011 年 10 巻 1 号 p. 25-45
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー
    乳幼児の容器操作の発達を分析するため,容器を用いる日常行為である食事場面を,食器への接触が最初に観察された生後 8 ヶ月 27 日から 12 ヶ月間縦断的に観察した。その結果,分析 1 では出現した操作の種類が明らかとなった。また、観察期間中に特に[入れる],[食具を入れる],[戻す],[入る]操作の増減の割合が高かったことが分かった。そこで分析 2 では,これらの食器に食物や食具を入れる操作を,容器が持つ異なる意味の利用過程として検討した。生後 10 ヶ月 30 日から,食器に偶然食物が入る時期があり,その後テーブルと食器内の両方で食物をいじる様子が観察された。1 歳 1 ヶ月 22 日からは,食器に食物を入れる,盛り付けてあった食器に戻す,食具を置く,食器間で出し入れする,食器内で入れ替える,食べる食物を入れ食べない食物を出す,食べた後の食物を食器に戻す,自分の食器に入れるといった容器利用のバリエーションが観察された。月齢によって,食器は異なる意味を持った場所として利用されているようであった。
  • 環境-行為系の創発
    佐々木 正人
    2011 年 10 巻 1 号 p. 46-62
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー
    床の上に仰向けに置いたカブトムシが,様々な物など,周囲の性質を使って起き上がる過程を観察した。床の溝,タオル,うちわ,鍋敷,チラシ,爪楊枝,リボン(細,太),ビニルヒモ,ティッシュ,T シャツ,シソの葉,メモ用紙,割り箸,フィルムの蓋を起き上がりに利用する虫の行為が記録された(図 1~17)。周囲の性質で起き上がりに利用されたのは,物の網目状の肌理,床とその上に置かれた物の縁・隙間,穴上の陥没,抱え込んで揺らすことのできる物,床とひも状,棒状,円形状の物がつくる隙間であった。これらの観察をまとめるとカブトムシの起き上がりが,1)「地面-単一の脚」(図 18a),2)「変形する物-複数の脚・湾曲した背-地面」(図18b),3)「固い物-複数の脚・湾曲した背-地面」(図 18c)の 3 種の環境-行為系の創発として記述できることが明らかになった。
  • 姿勢に現れる視覚の役割
    西崎 実穂, 野中 哲士, 佐々木 正人
    2011 年 10 巻 1 号 p. 64-78
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/07/08
    ジャーナル フリー
    本研究は,高度な経験を有する描画者による,一枚のデッサンの制作過程を分析することを目的とした。対象の特徴を捉え,形状や質感,陰影を描くという客観描写としてのデッサンは,通常数時間を要する。本研究では,制作開始から終了までの約 2 時間半,描画者によるデッサンの描画行為の構成とその転換に着目し,制作過程に現れる身体技法を検討した。結果,描画行為を構成する複数の描画動作パターンの存在と時間経過に伴う特徴を確認した。特に,観察を前提とした客観描写に重点を置くデッサンにおいて,「見る」行為の役割を,姿勢に現れる描画動作の一種である「画面に近づく/離れる」動作から報告した。デッサンにおいて「見る」という視覚の役割は,姿勢の変化に現れると同時にデッサンの制作過程を支えていることが示された。
  • 文化の影響の視点から
    木戸 彩恵
    2011 年 10 巻 1 号 p. 79-96
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/07/08
    ジャーナル フリー
    本論文の目的は,女性の化粧行為の形成と文化移行による変容について,その過程とダイナミズムを捉えることである。調査では,定常的に化粧行為をする/しない選択をおこなった日本と米国の大学に通う女性 9 名の調査協力者に対して,半構造化インタビューを実施した。インタビューによって得られた調査協力者の化粧行為にまつわる語りに対し,文化心理学の記述モデルである複線径路・等至性モデル(Trajectory and Equifinality Model:TEM)を用いて,時系列に沿ったモデルを作成した。さらに,個人の選択を方向づける社会・文化的影響についての分析をおこなった。結果として,①女性の化粧を促進する社会・文化的影響が強い日本では,化粧行為形成に至るまでに,「受身的化粧」「自発的化粧」という 2 つの種類の経験をすること。②文化的越境を通じて異文化に身をおくことは自文化で培われた行為を相対化して見なおし,新たな習慣の形成と変容のための契機となり得ることが明らかになった。
  • 八ッ塚 一郎
    2011 年 10 巻 1 号 p. 97-115
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/07/08
    ジャーナル フリー
    高校家庭科教諭に聞き取り調査を実施し,家庭科教科書が学習者にとってわかりにくく使いにくいものとなっている実態を聴取した。その背景を,教科書に対する 3 方向からの言説分析によって明らかにした。第 1 に,現行家庭科教科書の目次分析により,その配列が学習者を看過しており,もっぱら執筆する側のせめぎあいによって規定されている可能性を示した。第 2 に,教科書本文の語り口を分析し,特徴的な 3 種類の語り口を摘出して,第 1 の分析結果を確認した。さらに,家庭科教科書が外見上は学習者に対する「主体化の装置」であるにもかかわらず,実際の記述は主体化を目的とせず,そのことに関心すら向けていない可能性を指摘した。第 3 に,戦後以降の家庭科教科書の特徴を経年的に整理し,そこに一貫した明確な原理が見られないことを指摘した。以上の検討を踏まえて,学習者の関心を喚起しその社会化を促す,多声的な構造をもった新しい教科書を構想した。さらに,既存の教科編成全体を視野に入れ,家庭科領域を基盤としてそこから既存の「主要教科」に相当する内容を学習する,新たな教科編成のイメージを提示した。
  • 2 人の児童の発言に着目して
    一柳 智紀
    2011 年 10 巻 1 号 p. 116-134
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/07/08
    ジャーナル フリー
    本研究は,児童の聴くという行為が,課題構造の異なる話し合い場面に応じてどのように異なるのか,バフチンの述べる他者の言葉との「内的対話」に着目し,対象児の発言から明らかにすることを目的とした。小学 5 年生2 学級から 1 人ずつ対象児として頻繁に発言する児童を抽出し,国語科と社会科における対象児の発言を検討した。結果,以下 3 点が明らかとなった。(1)単元固有の知識が存在し,その獲得・共有に向かう話し合い場面で,2 人の対象児は自分の既有知識や経験と関連づけて他者の発言を聴いていた。(2)多様な考えを交流し,理解の精緻化に向かう話し合い場面では,一方の対象児はテキストとの「対話」の中で形成された自己のテキスト理解と他の児童による発言を関連づけながら,話し合いの流れを捉えて聴いていたが,もう一方の対象児は話し合いの流れを形成する複数の先行する発言や,先行する発言に加え共有されたテキスト・資料の言葉といった複数の他者の言葉と同時に「(内的)対話」することを困難としていることがうかがえた。また(3)課題構造が同じ話し合い場面でも,聴くという行為の特徴は異なっており,教師の応答の違いや先行する発言内容の違い,あるいは参加者間で共有されているテキストの有無など,各場面における社会文化的状況の違いが聴くという行為に影響していることが推察された。
  • 松本 京介
    2011 年 10 巻 1 号 p. 135-157
    発行日: 2011年
    公開日: 2020/07/08
    ジャーナル フリー
    金縛りを体験した青年の語りを通して,金縛りの心理的意味について検討することを目的として,大学生 28 名を対象に半構造化面接を実施した。トランスクリプトの分析には解釈学的現象学的分析(Interpretative Phenomenological Analysis: IPA)を援用した。その結果,金縛りの心理的意味と考えられるマスターテーマとして,「依存と独立の葛藤」「『見る自分』と『見られる自分』の葛藤」の 2 つが抽出された。「依存と独立の葛藤」のマスターテーマは「依存の抑制と不満」「独立への不安と罪悪感」で構成され,「『見る自分』と『見られる自分』の葛藤」のマスターテーマは「自分の確立への迷いと疎外」「『他人から見られる自分』の意識」「『理想の自分から見られる自分』の意識」で構成されていた。いずれのテーマも,思春期的な葛藤にかかわると考えられた。これらの結果をもとに,金縛りの心理的意味について総合的に考察し,金縛りは個体内の生理学的過程としてとらえられるだけでなく,心の葛藤を自我が処理しきれないときに身体に表現される行為であり,他者に向けられたメッセージとして関係のなかで理解される可能性をもつ現象であることが示唆された。
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