抄録
高校家庭科教諭に聞き取り調査を実施し,家庭科教科書が学習者にとってわかりにくく使いにくいものとなっている実態を聴取した。その背景を,教科書に対する 3 方向からの言説分析によって明らかにした。第 1 に,現行家庭科教科書の目次分析により,その配列が学習者を看過しており,もっぱら執筆する側のせめぎあいによって規定されている可能性を示した。第 2 に,教科書本文の語り口を分析し,特徴的な 3 種類の語り口を摘出して,第 1 の分析結果を確認した。さらに,家庭科教科書が外見上は学習者に対する「主体化の装置」であるにもかかわらず,実際の記述は主体化を目的とせず,そのことに関心すら向けていない可能性を指摘した。第 3 に,戦後以降の家庭科教科書の特徴を経年的に整理し,そこに一貫した明確な原理が見られないことを指摘した。以上の検討を踏まえて,学習者の関心を喚起しその社会化を促す,多声的な構造をもった新しい教科書を構想した。さらに,既存の教科編成全体を視野に入れ,家庭科領域を基盤としてそこから既存の「主要教科」に相当する内容を学習する,新たな教科編成のイメージを提示した。