抄録
本研究では教師のリヴォイシングにおける即興的思考の特徴を明らかにすることを目的に,話し合い中心の授業を継続的に実践する小学校教師による国語の授業談話とインタビューから,教師がどのような視点からどのように児童の発言や学習状況を認識し,その認識がどのようにリヴォイシングに反映しているかを,話し合いに対する教師の信念に着目して質的に検討した。その結果,第 1 に,リヴォイシングに際し児童の発言や学習状況を認識する教師の視点は多元的でありつつも柔軟に変化し,リヴォイシングにおいて取り上げる言葉や宛先に反映されていることが示された。第 2 に,他者の発言を聴くこと,さらに聴いて考えたことを自分の言葉にして発言することが重要であるという話し合いに対する対象教師の信念が,リヴォイシングにおける即興的思考において(1)児童の発言のうちにその後の話し合いに対する展望を見いだし,その発言を受けて周囲の児童が話し合うことを期待する,(2)児童の発言の仕方のうちに自身が願う学習姿勢の変化を見いだし,さらなる変化を期待する,(3)児童の視点に立って発言を聴き,児童の読解過程に寄り添う,という 3 点に反映していると考えられた。ここから,対象教師にとってリヴォイシングが話し合いを組織化するだけではなく,自身の信念を体現し,信念に基づき児童を育て,学級作りを進めるための方略の一つとなっていることが示唆された。