抄録
本研究は,「生成的理論」の立場から,〈再帰的近代としての高齢化社会〉における新たな人間形成の存在論的基
盤を探索していく試みである。その試みは以下のような手順で展開される。高齢化社会を「再帰的近代」として認識し直し,そこから「生成的理論」という本研究のメタ理論的立場(理論動機)を根拠づけ,認識目的を明確化する(1 節)。1 節における理論動機と認識目的を,視角としての〈ラディカル・エイジング〉,生成的感受概念としての〈再帰的社会化〉,方法としての〈個人誌的アプローチ〉として具体化し,調査問題を構成する( 2 節)。調査問題を探索するための意味を担ったフィールドとして,現代日本における「中年の転機」と〈意味感覚としての隠居〉を取り上げ,両者が交差する地点に生成するライフストーリーを提示する(3・4 節)。ライフストーリーの分析から,〈超社会化〉〈非社会化〉〈再社会化〉という3 つの文脈を見出し,社会化概念をこれら3 つの文脈のダイナミズムを含み込んだものとして再編する。そして,これら3 つの文脈のダイナミズムの中で照射される〈意味の根源的基層〉と,そこへのラディカルなまなざしから再帰的に生成される〈超越的地平〉が,〈再帰的近代としての高齢化社会〉における新たな人間形成の存在論的基盤を構成するものとして提示される(5・6節)。