抄録
非専門家,「素人」でもできる手作りの科学としての夢研究法をめざし,夢の物語論的現象学分析を構想する。「実
践基礎編」では,夢日記のウェブサイト上の作成から始まり,ユングに基づく夢の物語構造分析,ポップカルチャー
に示唆を得た夢の異世界分析,「夢世界の原理」に基づく現象学的分析の三段階を経て夢の意味に到達するという
物語論的現象学分析が,手作りの科学に相応しい分析法として提唱され,著者自身の夢日記からの事例の一つに
ついて実践された。「理論編」では,現象学的夢分析の源流を,ジオルジの記述現象学と,フッサール志向性分析
に基づく渡辺の夢の現象学の試みに求め,さらにレイコフのメタファー論を援用することで,「夢世界の原理」の
成り立ちを明らかできることが示された。「実践応用編」では,実践基礎編の続きとして 3 事例から成る夢シリー
ズに物語論的現象学分析を適用し,夢の意味すなわち深層のテクストに到達することを試みた。「考察と結論」で
は,本稿で用いた夢の現象学的分析と夢の神経認知説とが,相互補完的関係にあることが論じられた。最後に,
AI 支配の世界の到来にあたって手作りの科学という新しい科学の形を構想することの意義が,改めて述べられた。