2024 年 23 巻 1 号 p. 33-46
本研究は,津波避難訓練支援アプリ「逃げトレ」をめぐる産官学の連携について,質的研究の観点から分析したものである。特に,本研究の対象とした産学官連携の開発者間で,どのような意味合いでイノベーションが起きていたと認識されていたかという問いを立てて考察を行った。筆者らは,2015 年から「逃げトレ」の開発スタッフとして携わり,システム設計やデザインを担当する民間企業の職員や津波シミュレーションを行う他研究機関の職員,太平洋・瀬戸内海沿岸部の行政職員らと共にスマートフォンアプリの開発に取り組んできた。そのプロセスを,半構造的インタビュー調査による質的研究の手法を用いて分析した。その結果,開発に携わった民間企業の職員や行政職員はいずれも,開発の過程でイノベーションが生じていたと感じていたものの,イノベーションとは技術が新しくなることだけではなく,組織的なつながり方が変化するなどという多義的な意味合いで認識されていたことがわかった。