抄録
本論文は,産学官連携における質的研究の適用に焦点をあて,対立から相補性への転換と,多様性の概念を超越した複線性の採用を提唱する。そこで,複線性の視点から「異床同夢」─異なる基盤にいながら共通の目的や夢を共有することの重要性を強調する。第1 項では対立と多様性の問題を検証し,対立ではなく相補性を,多様性に時間的な次元を加えた複線性を,それぞれ重視すべきと論じる。第2 項では,産学官連携における複線径路等至性アプローチ(TEA)の適用事例を紹介し,質的研究が製品開発や市場理解にどのように貢献するかを示す。第3 項では,「ものづくり」「ことづくり」「しなづくり」という三鼎構造を提案し,これらが相互に連携し機能する過程を説明する。最終節では,TEA の理論とシモンドンの展結の概念を統合し,モード論における学融に時間軸を加えることの意義を論じる。また,最後に社会が間違っている場合を想定する必要があること,それに備えて常に歴史から学ぶことが重要であることを指摘する。