抄録
本研究ではパフォーマンス心理学の観点から,従来の欠如モデル・獲得モデルに偏ることなく,首都圏近郊の大学生・大学院生の政治的主体としての発達プロセスを明らかにすることを試みた。2 大学の大学生・大学院生計19 名のインタビューデータの分析から,政治的主体としての「知ることに頼らない成長」のプロセス,および政治的無関心の学習プロセスを記述した。また結論として(1)教育現場での実体験よりも政治的無関心のパフォーマンスと「政治教育の不在」という一般的な言説に基づいた正当化のほうが強い支配力をもつこと,(2)政治的無関心が単なる個人的態度ではなく,政治的な話題を避けたり他の話題と区別したりするような対話実践によって協働的に構成されていること,(3)「知ることに頼らない成長」や自身の政治思想に対する内省を伴うパフォーマンスが高度な批判的思考による投票行動につながる可能性,(4)友人同士のネットワークのなかで投票の有無が可視化されたり重要な話題となった場合,それが投票行動を促進すること,の4 つを指摘した。