質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
学校で生徒を亡くす経験をするということ
養護教諭の経験と感情の変化に焦点をあてて
大野 志保
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2025 年 24 巻 1 号 p. 278-290

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抄録
学校の日常で児童生徒が亡くなることはまれなことであるが,毎年一定数の報告があり,多くの教師が児童生徒の事故死などの学校危機を経験している。突然の事故などによる児童生徒の死亡は喪失体験でもあり,日頃は子どもたちを支えている教師も動揺しており,特に養護教諭の動揺が大きいことが報告されている。本研究では,学校で勤務する中で生徒の死亡事故を経験した養護教諭が,事故後につらいと感じたこと,つらい気持ちの軽減のために誰に支援され,何が支えとなって次の行動に移ることができたのかを明確にすることを目的とした。生徒の死亡事故を経験した養護教諭1名を対象にインタビューを実施し,生徒の死を受け入れ,気持ちの整理がつくまでの経験を聴きとった。そして,気持ちの整理がつくに至るまでの協力者の感情の動きと協力者の行動を後押しした要因,阻害した要因に焦点をあてて,養護教諭という仕事の中で遭遇した死亡事故経験の可視化を試みた。分析枠組みは,複線径路等至性アプローチ(TEA)を用いた。協力者は,事故直後は放心状態であったが,校内の救急体制の整備や事故が原因で不安定になった生徒たちへの対応に追われた。当該学年の生徒たちが卒業していった後,一人でお墓参りに行って自分なりの喪の作業を行い,生徒の死を受けいれるに至った。その後は,日常の生徒との交流や卒業生との再会,異動が転機となり,気持ちの整理がつくに至った。
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© 2025 日本質的心理学会
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