質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
「脱中心化し,影響を与える」実践の具体化
ナラティヴ・セラピーの会話におけるセラピスト-クライアントの応答分析
横山 克貴
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2025 年 24 巻 1 号 p. 291-309

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抄録
ナラティヴ・セラピーは経験を語り直すことに主眼を置いたポストモダンの潮流に位置づけられる心理療法であり,「脱中心化し,影響を与える」というセラピストの関与の仕方に関する概念を持つ。この概念は,治療的会話において,セラピスト(Th)が影響力を発揮しながら,クライアント(Cl)を治療的会話の中心に位置づけるという考えを示しており,ポストモダンの心理療法に寄与する実践の在り方を示している。ただし,その具体性という点で検討の余地を残しており,本研究では,この「脱中心化し,影響を与える」という実践がどのようなものか具体化すること目的とし,以下のような方法で分析を行った。まず,ナラティヴ・セラピーをベースとした実践を行っているセラピストの会話を20セッション分収集した。そして,ThとClの発話を,質的なカテゴリ分析を用いて分析し,Thのミクロな発話形式,およびClの応答の分類を行った。その結果として,Thが多様な種類の発話を工夫しながら用いるとともに,主題の設定や評価というメタ的なレベルの会話の導入を通して,「脱中心化し,影響を与える」という実践を達成しようとする様相を描き出した。同時に,Thの発話に多様な仕方で応答することで,Clがそのような会話の生成に貢献することも記述した。
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© 2025 日本質的心理学会
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