質的心理学研究
Online ISSN : 2435-7065
アイデンティティー・ポリティックスとサバイバル戦略
在日ブラジル人児童のエスノグラフィー
森田 京子
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2004 年 3 巻 1 号 p. 6-27

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抄録
本論文の主旨は,ニューカマーのブラジル人児童三人が,日常的なアイデンティティー・ポリティックスを数々のサバイバル戦略で克服しながら,日本の小学校に異文化適応したプロセスを描写することである。三年にわたる長野県でのエスノグラフィック・リサーチで収集したデータの分析によって,このブラジル人少年たちの学校適応に影響を与えた二大要因が明らかにされている。一つは,普通学級という社会集団に共同参加しているメンバー同士の互恵的結合を通じて,肯定的な自己意識として形成される「対人相関的アイデンティティー」である。もう一つは,日本人学級集団の主流派とは異なるさまざまな周辺的生徒たちと,自発的に連帯し助け合ったり意識的に区別し離れたりすることによって,肯定的な自己確認を模索する「マイノリティー内ポリティックス」である。分析では,ブラジル人生徒各自が自己アイデンティティーを積極的にコントロールして,自分自身を肯定的にとらえようと奮闘する様子が記述されている。また,データに示された生徒たちの能動性は,文化摩擦や組織的同化圧力による説明だけに依存しない理論の必要性を指摘している。ブラジル人児童たちは,自ら得意なスキルや有用なアイデンティティー資源を創造的に利用しながら,所属学級コミュニティーと社会的に統合し,教科学習でも成果を上げたが,この結果は,同質的であり同質化させると認識されている日本の初等教育システムが,実際にはこのような民族的マイノリティーの子供たちをどのように扱っているかを提示している。最後に,ニューカマー外国人生徒のエンパワーメントを促進するために,日本の共同体主義的な学級経営の利点を最大活用する実践的オプションが示唆されている。
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© 2004 日本質的心理学会
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