小長梁遺跡は前期更新世の人工遺物を出土する遺跡として重要であるが,その遺物包含層と同一層準から採取した大量の堆積物を細かい目の篩で水洗して,多くの小型哺乳類化石を得た.遺物包含層の年代は古地磁気測定により1.36 Maとされている.小型哺乳類は生層序の研究や古環境復元に重要であるが,この遺跡ではこれまで小型哺乳類化石はほとんど採集されてこなかった.今回は得られた化石をもとに,この遺跡の小型哺乳類の動物群の特徴を明らかにし,それを近隣の地域にあって古地磁気層序や放射年代が明確な4つの化石産地の動物群と比較した.それらにもとづいて,後期鮮新世とそれ以降の時期の地層における小型哺乳類の生層序と,それらの時期の小型哺乳類の動物相の変遷について論議した.変遷については,絶滅種が卓越する後期鮮新世から前期更新世にかけての中国北部の動物相が1.66 Maと1.36 Maの間に現生種(カヤネズミ)の出現により若干変化したあと,1.36 Maと0.6 Maの間には多くの絶滅種が見られなくなる一方で,現生種が数多く出現するという大きな変化があったと考えられる.さらに,この遺跡周辺の前期更新世の古環境については,温帯の気候で,湖の近くにまばらに灌木の生えた草原という環境が推定された.