抄録
音声はじめ調波構造物の帯域制限波は、振幅包絡の極大部と極小部に二分できる。前者は情報を有する部分であり、後者は順向性のマスキング効果により知覚が難しい箇所に対応する。すると先行研究で提案した音質評価指標である位相誤差と振幅誤差の許容についても、両者を分けて見積もるべきである。本研究では、振幅包絡の極小部について、主観評価を使用して両指標の許容を再推定すると共に、同極小部の役割について考察を深めた。許容値は位相誤差が14%、振幅誤差が100%と極大部に比べて大きく見積もられたことから、極小部には意味の有る情報は含まれていないことが示唆された。聴神経が刺激に順応して発火頻度を低下させる現象から考えて、同期間は聴覚系の神経活動を休めて順応を解き、次の情報入力に備えるためにあるとする解釈を試みた。加えて、音質を維持したまま振幅包絡が変更できる許容範囲を例示して、振幅包絡のノイズに頑健な構造を可視化すると共に、極小部をゼロ振幅に修正できることを説明した。