日本醸造協会誌
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芋焼酎における蒸留時の各種成分の留出挙動
瀬戸口 智子神渡 巧
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2020 年 115 巻 8 号 p. 479-492

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抄録

芋焼酎の常圧蒸留において留出液を分画することで,一般成分と57種の揮発性成分の留出曲線を明らかにした。また,今回のもろみ条件・蒸留条件においては,揮発性成分を9種類の留出パターンに分類できた。
1.1分当たりの留出量は,蒸留の初期に最も多く蒸留が進むにつれて減少した。
2.急減型を示したものはcis-,trans-ローズオキサイドやエステル類など11成分あり,画分1で最高濃度を示したことからもろみ中に存在していたこと,一般的な蒸留の終点である画分8までにほとんどの成分の留出が完了したことから,生じる全量を焼酎に回収していることが推察された。
3.漸減型を示したものは高級アルコール類などの10成分であり,画分8までに濃度がゼロ近くまで低下したことから,もろみ中に存在していた量の100%近くを焼酎に回収していることが示唆された。
4.急落型を示したものはラウリン酸エチルとミリスリン酸エチルの2成分であった。
5.初留区分頂点型を示したものは長鎖脂肪酸エチルエステルのパルミチン酸エチル,オレイン酸エチル,およびリノール酸エチルやモノテルペンアルコール類であるシトロネロールとネロールなどの11成分であった。
5.1 焼酎の濁りの原因とされる長鎖脂肪酸エチルエステルが初留区分において高濃度であるにも関わらず濁度がゼロであった理由は,高濃度のエタノールにこれら長鎖脂肪酸エチルエステルが完全に溶解していたためと考えられた。
5.2 原料不良臭の原因物質であるシトロネロールとネロールはどちらもエタノールと同様な留出挙動を示したことから,蒸留時にエタノールを回収しつつそれらを除外することは困難と判断した。
6.中留区分頂点型を示したものは芋焼酎の甘い香りに関与するβ-ダマセノンや芋焼酎の特徴香成分であるリナロールなどの7成分であり,これら成分の生成には加熱が関与していると考えられた。
7.後留区分頂点型を示したものはバニラ様の香りがするバニリンなどの3成分であった。
8.後留後区分頂点型を示したものはβ-フェネチルアルコールやアセトインなどの4成分であった。アセトインの留出曲線には2つのピークが見られた。1つ目の頂点は中留区分にあり,その約2倍高い濃度を示す2つ目の頂点は後留後区分にあった。
9.漸増後一定型を示したものは酢酸などの4成分であり,この4成分は最大濃度を示した画分以降の濃度が低下しないことから,焼酎粕への残留分が多いと推測される。
10.漸増型を示したものはフルフラール類やチオフェン類などの5成分であった。これらの成分は加熱によって生じるために,留出液濃度の上昇が最終画分まで続いたと考えられた。フルフラールは紫外部吸収と相関があるが,フルフラールが検出されない画分に紫外部の吸収が見られることから,フルフラール以外に紫外部を吸収する成分の存在が示唆された。
11.官能評価では,初留区分はエステル類などの華やかな香り,中留区分~後留区分は蒸した芋の甘い香り,後留後区分は末垂れ臭や加熱臭と表現された。
12.これらのデータは,芋焼酎の酒質の向上や製品の多様化などにつながると考えられる。

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