日本醸造協会誌
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低温醪及び並行複発酵培地における清酒酵母の含硫物蓄積とメチオニンアデノシルトランスフェラーゼ活性
清酒醪の発酵温度と酒質の関係 (第3報)
進藤 斉矢部 修平角田 潔和小泉 武夫
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キーワード: 清酒醪
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2006 年 101 巻 1 号 p. 61-68

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抄録

低温醪において液部のMet濃度が増加せず, 低濃度で一定推移し, 酵母菌体内にSAMを高蓄積する現象に対して, 低温が及ぼす影響を個別に検討した。
1. 単発酵培地では, 糖が同濃度条件でY, Pまたは麹エキス由来成分が低濃度条件であってもMATFase活性は高くならなかった。また10℃の低温培養でも同様であった。MATFase活性は, 低温における菌体内SAM高蓄積との直接的な関連は薄いと推察した。
2. 醪ではSAMを菌体内に高蓄積している10℃発酵条件下でも必ずしもMATFase活性が高くならなかった。さらにMet添加でMATFase活性が高く, かつ10℃でもSAMは高蓄積されないことが示された。このため, 本酵素活性と低温醪でのSAM蓄積の関連性は低いこと明らかとなった。
3. 10℃醪では, SAM量が228~242mg/醪1kgと15℃の180mgに比べて多かった。しかし両温度条件でもSAMの90%は菌体内に存在し粕へ移行したことより, 低温醪でSAM生成量が多くても末期管理が適切ならば酒質への悪影響はないと推察した。
4. 糖とアミノ酸が連続的に供給され並行複発酵するモデル培地として固液共存培地を作成した。グルコースは順調に消費され, 培養終了時のアルコールが約15%, アミノ酸度も徐々に増加し最大4mlとモデル培地として妥当な経時変化であった。
5. 固液共存培地では, 10℃, 15℃両条件で総アミノ酸量及び各アミノ酸組成でも大部分は増加したが, Metは10℃で低濃度のまま一定推移する特徴的な動向を示した。また培養終了時の菌体内SAM量は, 10℃では19.6mg/1010cells, 15℃では同7.0mgと固液共存培地においても醪と同様に低温で高蓄積された。並行複発酵かつ低温での液部Metの低濃度推移と酵母菌体内SAM高蓄積現象は, 米, 米麹を用いずに再現可能であった。またMetが低濃度で徐々に供給されることが, 低温での酵母のMetの選択的取り込みに影響していると推察された。

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