材料と環境
Online ISSN : 1881-9664
Print ISSN : 0917-0480
ISSN-L : 0917-0480
論文
水道水環境における炭素鋼の腐食(Ⅱ)
―腐食生成物による表面被覆率と腐食電位の関係―
中村 勇二松川 安樹岡崎 慎司朝倉 祝治
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 70 巻 9 号 p. 295-301

詳細
抄録

日本国内66地域で採取した水道水を研究対象として,炭素鋼の腐食試験を行った.炭素鋼表面に腐食生成物が堆積していく過程に着目し,解析した.

表面被覆率(θ)を,全表面積(A)に対する腐食生成物による被覆面積(Arust)の割合(θ=Arust/A)と定義した.それぞれの水道水中において,θおよび腐食電位Ecorrの時間変化を詳細に追跡し,次の知見を得た.

(1)時間経過に伴ってθは増加し,同時にEcorrは卑化する.

(2)θとEcorr共に,ある浸漬時間で急激に変化した.この時間は,水道水の種類によって大きく異なる.この変化ののち,θとEcorrともに大きく変化しなくなる.

(3)log{θ/(1-θ)}とEcorrの関係は,ほぼ同じ曲線上に乗り,水道水の水質に依らない.すなわち,Ecorrを測ればθを求められる.

(4)Ecorr=-300~-500 mV vs.SSE,{θ/(1-θ)}=0.25~1の範囲で,両者が短時間で急激に変化した.その電位の中間値であるEcorr=-400 mV vs.SSEになるまでの時間をtinitial(hour)と定義した.tinitailが大きいと,小さなθで腐食が長時間進行することになる.

(5)tinitialが大きいほど電位が貴な状態で保たれる時間が長いことになり,実験終了時にポイントマイクロメーターで求めた最大局部腐食速度vmax(mm y-1)は大きくなった.同様に,重量減少量から求めた平均腐食速度vw(mm y-1)は,tinitialが小さい範囲で大きく変化しなかった.これらの事実から,次の機構が推定される.

(a){θ/(1-θ)}<0.25,すなわちθ<0.2では,アノード反応の箇所が固定されるため,局部腐食が発生する.

(b){θ/(1-θ)}>1,すなわちθ<0.5では,アノード反応の箇所が変動し,比較的均一に分布するため,均一腐食が生じる.

(6)tinitialvmaxの間には高い相関があり,定式化するとvmax=0.32×tinitial1/3が得られた.

この式によれば,Ecorrが-400 mV vs.SSEになるまでの時間から,vmaxを推定できる.

著者関連情報
© 2021 公益社団法人 腐食防食学会
前の記事 次の記事
feedback
Top