日本作物学会紀事
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品質・加工
サツマイモ塊根における蒸した後の肉質に関わる組織・細胞の形態,水分およびデンプンの特性
中村 善行藏之内 利和高田 明子石田 信昭鴻田 一絵岩澤 紀生松田 智明熊谷 亨
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2010 年 79 巻 3 号 p. 284-295

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抄録
サツマイモ塊根における蒸した後の肉質の違いに関わる要因の解明を目的として,肉質の異なる品種における塊根の組織・細胞形態ならびに水分およびデンプンの含有率や存在状態の違いを調べた.肉質が粉質な品種の生塊根では,デンプン含有率が高く,水分が少ない傾向が見られ,デンプンが完全に糊化した蒸しあがった塊根組織においても個々の細胞の形状は保持されていた.一方,粘質な肉質となる品種の生塊根は粉質な品種と比べてデンプン含有率が低く,水分が多い傾向が認められ,蒸した後の塊根組織では,隣接する細胞同士が融合し,それらと糊化デンプンゲルとが一体化した構造が観察された.また,粘質な肉質を呈する品種では多量の水分が組織に一様に分布しているが,粉質な品種では水分が少なく,分布も不均一なことが蒸した塊根のMR画像から示唆された.このように塊根におけるデンプンおよび水分の含有率と蒸した後の肉質との間には関連があり,蒸した塊根の組織・細胞形態にも肉質の違いに応じた相違が認められたが,細胞から単離したデンプンのアミロース含有率,糊化特性,ゲルの保水性には肉質との間に一定の関係が見られなかった.以上の結果から,蒸したサツマイモ塊根の肉質の違いには塊根におけるデンプンと水分の含有率が深く関わっているものの,これに加えて細胞壁の物理的および化学的性質などを介した細胞内におけるデンプン糊化特性や水分子の運動性なども関与していると考えられた.
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© 2010 日本作物学会
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