日本作物学会紀事
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収量予測・情報処理・環境
埼玉県におけるコムギの生育,収量および収量構成要素と気象変動の関係
―畑作試験圃場におけるコムギ「農林61号」の45年間の栽培試験に基づく解析―
箕田 豊尚小林 和彦平沢 正
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2015 年 84 巻 3 号 p. 285-294

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抄録

年次変動する気象条件や進行する温暖化に対応したコムギ栽培技術を開発していくためには,気象変動がコムギの生育と収量に及ぼす影響を明らかにしておく必要がある.研究の端緒として,埼玉県農業試験場の畑圃場において,1951年から1996年まで45年にわたり同一条件で栽培したコムギ「農林61号」の生育,収量および収量構成要素と生育期間の気象の関係を解析した.その結果,年数経過に伴って出穂期,成熟期のいずれも早まり,出穂期から成熟期までの日数が延長したが,稈長,収量および収量構成要素には年数経過に伴う一定の変化傾向は認められなかった.これらの生育・収量変化と気象変動との関係を重回帰モデルによって解析したところ,播種から出穂期までの日数は11~4月の平均気温と有意の負相関があり,播種から成熟期までの日数は11~4月の平均気温および5月の平均気温と有意の負相関のあることが見いだされた.稈長は1~4月の総降水量と3月の平均気温と有意の正相関があった.収量は11~12月の平均気温および出穂期から成熟期までの総降水量と有意の負相関が見いだされ,これは1穂粒数が11~12月の平均気温および5月の降水量と有意の高い負相関があるためであった.本研究の結果から,変動する気象条件下で安定して多収を得るためには,1穂粒数を安定して確保するための冬季の栽培技術と5月の圃場排水技術の開発,そして倒伏を防ぐための稈長制御技術の開発が重要であることが推察された.

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© 2015 日本作物学会
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