2017 年 86 巻 4 号 p. 319-328
暖地向けパン用コムギ品種「ミナミノカオリ」は,子実タンパク質含有率が高いものの,収量が低いという特徴がある.本研究では,熊本県のコムギ多収地域において,「ミナミノカオリ」の高品質多収化を目的として,基肥と分げつ肥を省略し,穂肥を増肥した穂肥重点施肥が,収量,収量構成要素,分げつの成長量や消長におよぼす影響を検証した.穂肥重点施肥区は,2014/15年と2015/16年のいずれも慣行分施区に比べて穂数が5~20%増加した.その結果,2014/15年では慣行分施区に比べて収量が15%増加した.子実タンパク質含有率は,収量が増加したにもかかわらず低下しなかった.2015/16年では,収量は607 g m–2と慣行分施区と同程度であったが,子実タンパク質含有率は13.8%と慣行分施区の12.5%に比べて有意に高くなった.一穂粒数と千粒重はいずれの作期でも穂肥重点施肥では増加しなかった.穂肥重点施肥区で穂数が増加した原因は,主茎第3節分げつの有効化した茎の発生率が62.2%と,慣行分施区の19.1%に比べて高いためであった.成熟期における主茎第3節分げつの乾物重は,穂肥重点施肥区で2.28 g と慣行分施区の1.67 g に比べて有意に重かった.地上部窒素蓄積量は,慣行分施区では穂揃い期から成熟期にかけて3.6 g m–2増加し,穂肥重点施肥区では5.3 g m–2増加した.その結果,成熟期では,穂肥重点施肥区で18.8 g m–2と慣行分施区の15.6 g m–2に比べて有意に多かった.穂肥重点施肥は,収量が増加しても窒素吸収量を増加させることで子実タンパク質含有率を高水準に維持するため,パン用コムギの高品質多収栽培に有効であると考えられた.