水稲種子の温湯消毒は化学合成農薬を使用しない消毒法として注目されている.温湯消毒処理により一部の品種において発芽率の低下や,逆に発芽率の向上の報告があり,その効果について不明な点が多い.そこで本研究では,生産年の異なる北海道で栽培されている水稲品種を用いて,60℃10分の標準的とされる温湯消毒処理による発芽性,特に低温発芽性に及ぼす影響について検討した.常温下(27℃)では一部の品種において初期の発芽率が温湯消毒処理により向上したがその効果は低かった.低温下(15℃)では多くの供試品種で温湯消毒処理により発芽が早まる傾向が観察され,特に2014年産の種子において顕著な差が見られた.温湯消毒処理による低温発芽向上効果の高かった2014年産の「ななつぼし」,「ゆめぴりか」,「おぼろづき」を用いた低温出芽試験においても,温湯消毒処理により出芽が早まった.温湯消毒処理は北海道の栽培品種に対して負の影響を与える可能性が低いだけでなく,直播栽培において低温出芽を促進する方法となる可能性がある.