2020 年 89 巻 2 号 p. 119-125
近年育成された品種を含む我が国の代表的なコムギ18品種を茨城県つくば市で栽培し,倒伏指数および倒伏抵抗性に関与する強稈関連形質の品種間差とその要因を解析した.倒伏指数が18品種中で最も小さく倒伏抵抗性が高いと考えられたのは「ゆめちから」であった.「ゆめちから」の稈基部の葉鞘付曲げ剛性と挫折時モーメントは,いずれも18品種中で最も大きかった.稈基部の葉鞘付挫折時モーメントが大きかった品種のうち,「ゆめちから」は曲げ応力と断面係数が共に大きく,「ゆきちから」と「チクゴイズミ」は曲げ応力は大きく断面係数は中程度であった一方で,「きぬの波」と「あやひかり」は曲げ応力は中程度で断面係数は大きかった.また本研究では,稈基部横断面積と1穂小穂数に同じ傾向の育成地域間差が見られ,北海道地域育成の品種群は九州地域育成の品種群より,断面積と1穂小穂数が有意に大きく,北海道および九州と並んでコムギの主産地である関東地域育成の品種群の断面積と1穂小穂数は中間的な範囲にあった.以上のことから,「ゆめちから」は湾曲型倒伏と挫折型倒伏の両方への抵抗性が高いことが示された.また,挫折時モーメントが大きい品種の中には,曲げ応力が大きいものと断面係数が大きいものがあることが明らかになり,このような異なった特徴を持つ強稈品種間で交配することによって,さらに倒伏抵抗性の大きい形質を作出できる可能性が考えられた.加えて,強稈関連形質は育成地域ごとに異なる傾向を持つことが示唆された.