抄録
コムギ(Triticum aestivum L.) の越冬前におけるフルクタン(フルクトース重合体)含有率と越冬性との関係を, 品種育成の系譜上でつながりがある29品種・系統を用いて調査した. 1. 全ての品種の地上部において, グルコース, フルクトース, シュークロースに比較して, フルクタン含有率が極めて高かった. 器官別にみると, 茎基部(葉鞘を含む)は葉身に比較して, 約2倍のフルクタン含有率であった. 茎基部におけるフルクタン含有率の品種間差異から, 乾物当たり13%を境界値としてこれらの品種を低蓄積群と高蓄積群に分けることができた. 2. 品種間において, フルクタン含有率と越冬性との間には, 正の相関関係が認められた. このことから, フルクタン含有率が越冬性を規定する一つの要因であると考えられた. 3. 高, 低蓄積群をそれぞれ構成する品種は, 品種育成の系譜上でつながりのあることが認められた. 特に高蓄積群は, Turkey Red II, 本育49号, 北陸17号, ユキチャボ, F7, 北陸49号までの系譜上での一連の品種につながりがあった. これらの品種はいずれも寒冷地で育成されたものであることから, フルクタンを高濃度に蓄積する特性の遺伝が示唆された.