抄録
水田に栽培したトウビシ(Trapa bispinosa Roxb.)の果実の発育過程を茎軸上の節位および開花時期の2つの側面から観察し, 精果実重の決定機構に関する検討を行った. いずれの分枝茎においても花芽の分化, 開花, 果実の生長などの諸過程は, 茎軸上における節位の進行に同調しており, 8月中に開花して順調な発育を示した果実はその発育程度に大きな変異が認められなかった. 最終果実重と開花時期との関係をみた結果, 精果実の得られる限界開花時期の存在が示され, 開花開始期から9月中旬までの期間が精果実を得る有効な開花期間であることが明らかとなった. さらに, 開花した花の精果実生産係数の推移に基づいて開花期間を細分すると, 精果実生産係数が高く安定している8月中の開花前期, 精果実生産係数が減少する9月上旬から中旬までの開花中期, および精果実生産係数が0となる限界開花時期をすぎた9月中旬以降の開花後期に分けることができた. また, 果実の最終生長量は, 開花前期内であれば, いずれの時期に開花したものであっても変異が小さく, 分枝茎間の差異も小さかった. さらに, 開花前期が同中期より長いために, 開花前期に形成された精果実の数は総精果実数の大半を占めるものと考えられる. したがって, これらのことが, 結果的に大多数の果実の生長量の変異を小さくし, 平均精果実重を安定させている要因となっているものと考えられた.