抄録
作物の水分欠乏は, 土壌深くまで水分が著しく減少する条件とともに, 水環境が湿潤から乾燥へと急激に大きく変化するような条件でもおこる. 土壌水分低下に対する反応の品種間差を検討し, 品種間差をもたらす生理, 生態, 形態的性質を明らかにすることは, 安定し高い収量をあげる品種を育成するために必要である. 本研究は, ダイズの低土壌水分に対する反応の品種間差を明らかにするため, まず, 降水量の多いわが国と比較的少ないアメリカ合衆国で栽培されている種々の品種を生育初期から土壌水分が減少する条件で生育させた. その結果, 土壌水分低下に伴う乾物重や子実重の減少程度は, アメリカ合衆国の品種がわが国の品種に比較してとくに小さい傾向はなかった. しかし, この減少程度は晩生の品種に比べて早生の品種で小さく, 生態型がほぼ等しい品種間でも, 明らかに異なった. そこで生態型がほぼ等しく, 減少程度が異なるエンレイとタチナガハ, HarosoyとBeeson, WayneとS-100の3組, 6品種を選び, 各組み合わせの品種が相互に隣接する条件で生育させた. その結果, タチナガハ, Beeson, S-100は, 低土壌水分条件でも, 日中の葉の木部の水ポテンシャルの低下が小さく, 葉面積の減少, 光合成速度の日中低下が抑制され乾物生産が高かった. これらの品種はいずれも夜明け前の葉の木部の水ポテンシャルが高いことから, 根系が良く発達していることが推察され, 品種間差をもたらした共通の要因として根系の発達の相違が考えられた.