抄録
本発表は,色彩文化の視座から,日本の伝統的配色を「ハレ」と「ケ」に分類する試論である.日本人が食文化のなかで色彩を祝祭,そして日常と分けてきたのではないかと仮説を立てる.「ハレ」と「ケ」は,民俗学者柳田國男が見出した日本文化に底流する世界観として知られる.17世紀にイエズス会士が「日葡辞書」に「ハレ」と「ケ」の概念を記した.文化人類学者ハロルド・C・コンクリンは,フィリピンのハヌノオ族が色彩を「乾燥」「湿潤」によって分類することを発表した.この分類は,乾季と雨季の二季であるフィリピンの気候から生まれた世界観と考えられる.
日本では「ハレ」の配色として,紅白(赤白),金銀,五色,錦があり,「ケ」の配色として,鼠・茶色,藍色がある.このような言説は染織において今までに見るが,本発表では日本の食文化の諸例を通じ,同様な世界観と分類があることを解説する.特に,季節行事にまつわる食事とその配色が世界観と深くつながっている.また,他国との共通性と日本の独自性についても言及する.本研究は公益財団法人前川財団・平成28年度家庭・地域社会教育研究助成によるものである.