2020 年 44 巻 3+ 号 p. 44-
物体表面に対する明るさ知覚は色の見えのモードと深く関係する.例えば,境界から外側に向けて低下する輝度勾配に囲まれた領域は,一様な輝度で囲まれた領域に比べて明るく知覚され,場合によっては光源色モードに知覚される.これはグレア錯視と呼ばれ,光源から光が発散する状態を輝度勾配で模擬したことで生じると考えられる.光源色モードの特徴のひとつである質感の欠如から,本研究では質感を操作することで物体色から光源色モードへの遷移や明るさの向上が生じるかどうかを検討した.実験では,テクスチャ画像に様々な分散値のガウシアンフィルタを適用してぼかすことで質感を操作した.明るさ向上効果は,異なる質感をもつ刺激の間の主観的等価点,つまり同じ明るさに知覚する際の輝度値を求めることで評価した.また,色の見えのモードは,輝度を様々に変えて色の見えのモードを回答させ,物体色から光源色モードに確率的に遷移する心理計測関数を求めて質感の異なる刺激間で比較した.結果から,ガウシアンフィルタの分散値に応じて質感が失われ,特定の範囲で明るさの向上がみられること,また,より低い輝度で光源色モードへの遷移が生じることが示された.