抄録 歯科における診断は口腔情報やエックス線写真から判断することが主であるが, 医療面接で患者からの言語情報によりある程度の診断が可能とされている. しかし, 言語情報からの判断基準については曖昧さが残っている. そこで, 歯科医師が患者からの言語情報をいかにして取捨選択し急性智歯周囲炎と診断をくだすのか, 経験年数によって違いがあるのか明らかにすることを目的として調査を実施した. 対象は歯科医師259名で, 患者の訴える自覚症状25項目について智歯周囲炎と判断する根拠になるかどうかを調査した. その結果, 急性智歯周囲炎の診断を肯定する言語情報は 「歯茎が腫れている」 「口を開けることが辛い」 「リンパ節が腫れている」 「唾を飲み込むと痛い」 「歯が埋もれている」 「ズキズキと痛む」 であり, 診断を否定する情報は 「つめものがはずれた」 「冷たいもので痛みがひどくなる」 であった. さらに, 臨床経験の長さにより2群に分けて比較を行った結果, 有意差が認められた言語情報は12項目であった. また, 診断に有効な情報かについての2群間の比較では11項目に有意差が認められた.
今回の結果から, 医療面接での特定の言語情報により急性智歯周囲炎の診断をある程度予測できること, そして, 歯科医師は臨床経験を積むことで, 急性智歯周囲炎の病態についての言語情報の取捨選択能力を獲得していき, 診断への熟達化と共に言語情報をパターン認識化することが示唆された.