この論文では、過去1世紀にわたり日本の家庭料理において中華料理がいかに展開してきたかを、主として料理番組テキスト『きょうの料理』のレシピと食材を分析し、かつそれを20世紀初頭に刊行された『料理の友』、および中国政府がオーソライズした中国の正典的な料理書である『中国名菜譜』と比較することによって考察する。結果として、戦後は主に中国出身の限られた講師たちが日本の読者に様々な中国料理を紹介していたが、1980年代ごろからは、餃子、チャーハン、春巻きといった特定のいくつかの料理の異なるレシピがよく紹介されるようになり、また香菜やオイスターソースや豆板醤といった、それまでなじみのなかった食材や調味料が頻繁に使われることになった。同じ料理が新しい要素をともなった様々なレシピで作られるようになったのである。このように、日本の家庭料理における中華料理は、多様な定番化の路線を進んでいると言えるのである。