抄録
東京圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)における木材小売業者8事業者にヒアリング調査を行い,そのうち5事業者の結果をもとに木材小売業者に期待される役割と可能性を示した。プレカット材の流通が広く定着した現在,木材小売業者の事業内容と経営方針の変化を把握し,そこから「加工」「在庫」「配送」「情報共有」の四つの視点を抽出した。顧客の注文に対応するため「加工」機能を充実させ,「配送」にかかる経費負担や「在庫」管理を見直していることもわかった。この三つの機能を支えるのが同業者,取引先との「情報共有」であり,この四つの視点を総合的に掛け合わせ経営を行っていることを把握できた。さらに本研究では木材流通における川上・川中・川下相互の「情報共有」の重要性も指摘した。業界全体が厳しい状況にある中,木材小売業者は木材と建築の知識に精通し,彼らが流通に介在することで,それぞれの現状と課題を把握できる繋がりの場ができ,彼らが新たな木材利用を担う重要な存在になり得る。本研究はまだ東京圏における木材小売業者を一般化するにはサンプル数が少なく,一定数を対象にした調査を行うことが今後の課題である。