抄録
森林所有者の経営意欲が減退するなか,素材生産事業体への期待と責任が高まっている。本研究では,素材生産事業体
が,伐出資本としての注意義務の「深化」と,政策的要請にもとづく森林経営参入という役割の「拡張」を同時並行的に進展するなかで,いかなる行為規範が形成されるべきかを検討した。全国の民間素材生産事業体(2,878事業体)を対象にアンケート調査を行い,604(21.0%)の有効回答を得た。分析の結果,(1)「業界慣行としての注意水準」と「実践の困難さ」にもとづき伐出に関わる作業項目を四類型化し,素材生産事業体に求められる注意義務の範囲を明らかにした。(2)森林経営参入に関しては,素材生産事業体の半数以上が森林を所有し,経営面積を拡大させている実態と,受託よりも所有による経営を志向する傾向が明らかになり,他律的な注意義務の「深化」が,所有を伴う責任の内在化へと変容する過程が示唆された。素材生産事業体が目指すべき行為規範とは,「注意義務の深化を前提とし,最終的に所有を伴う経営主体としての自律性を確立すること」に集約されると考えられた。