抄録
【目的】近年、環境容量を超えた社会経済システムの見直しや物質的に豊かなライフスタイルの問い直しが求められ、世界的に持続可能な社会の実現に向けて様々な国際会議や政策がとられ、教育の果たす役割もますます重要となってきている。日本の家庭科教育においても、1999年に告示された学習指導要領において、消費生活や消費行動と環境とのかかわりに関する内容の充実が図られている。他方、英国においても1999年に改訂されたナショナル・カリキュラムにおいて「持続可能な開発のための教育」という中心概念のもと、環境と人間との関係を熟視しながら持続可能な開発を進めるという視点で、消費者教育と環境教育が家庭科関連教科において展開されている1)。
そこで、本研究では、日本の家庭科の学習指導要領と英国の家庭科関連教科のナショナル・カリキュラム、および英国と日本の教科書を比較することにより、家庭科教育における消費者教育と環境教育のねらい、指導内容等を分析し、課題を探ることを目的としている。
【方法】英国において日本の家庭科に相当する教科は、「デザイン&テクノロジー」および「人格と社会性の形成、および健康に関する教育(Personal,Social and Health Education=PSHE)である。 まず、日本の学習指導要領と英国のナショナル・カリキュラムにおける消費者教育と環境教育の比較を行い、次に日英の教科書の比較を行う。 分析する英国の教科書は、下記等である。
1.John Foster”Your Life”Harper Collins Publishers Ltd,2000(3巻)
2.John Foster&Diane Craven“Your Future-Rights,relationships and Responsibilities”Harper Collins Publishers Ltd,2001
【結果】1.デザイン&テクノロジーに関しては、ナショナル・カリキュラムにおいて、知識、スキル、理解の視点として、(1)アイディアの開発、計画、伝達交換(2)良質の製品を作るための、道具、設備、材料を用いた実習、(3)製作のプロセスと製品の評価、(4)材料と製作方法の知識・理解、が挙げられており、消費者教育や環境教育の視点が盛り込まれている。また、フード・テクノロジー、テクスタイル・テクノロジーなどの内容は、中等教育において重視されている。
2.人格と社会性の形成、および健康に関する教育に関しては、知識、スキル、理解の視点として、(1)自信と責任感の発達、及び能力を生かすこと、(2)市民として活発な役割を果たすための準備、(3)健康で安全なライフスタイルの創造、(4)良好な人間関係の構築と差異の尊重、が挙げられており、消費者問題や環境問題に積極的に取り組む姿勢を身につけさせようとしている。
3.英国の教科書においては、問題解決的な学習が多く取り上げられており、消費者問題や環境問題を自分の問題として考え、実生活の中で責任を持って取り組んでいく姿勢を培おうとしている。
1) 井元りえ「英国の新ナショナル・カリキュラムにおける持続可能な開発のための教育」教材学研究第13巻,2002年3月,pp.131-134