抄録
【本研究の目的】1999年10月に,イギリスの健康省と教育雇用省(現・教育技術省)の連携の下で策定されたNational Healthy School Standard(NHSS)が公示された。NHSSは,学校が子どもたちの健康と教育を推進する拠点となるために取り組むべき課題と方法をまとめたガイドラインである。現在,イングランドでは,各学校を「健康的」なものにしていくために,地方教育当局がリーダーシップを取りNHSSに準拠した取り組みが全国的に推進されている。
このNHSSと,非法制化された枠組みとしてナショナル・カリキュラムに位置づけられている人格的・社会的発達を促す教育であるPSHEは,PSHEが健康教育をカリキュラム化している点において密接な関連を持っている。
本研究では、以上のようなイングランドの健康教育推進の状況に着目し,全国レベルで進められている政府主導のムーブメントが何を目的とし,どのような方策を講じようとしているのかについて考察する。特に,背景にあるイギリスの青少年の実態に関連する危機意識を踏まえた教育政策としての健康教育という観点から,国家が学校カリキュラムに介入,そして支援する仕組みの一例として,その実態を明らかにしたい。このことは,間接的にではあるが,日本の家庭科教育が社会的要請をどのように引き受け,社会変革の担い手となり得るのかという問題とも共通点をもつものと考えている。
【方法】NHSSに関する英文資料の分析による。資料は,主として健康省および教育技術省の政府刊行物と,NHSSを推進する部局である健康発達局の刊行物を使用した。いずれも,下記の各省庁のホームページからダウンロードして入手した。
【結果および考察】
1. 健康教育推進政策の背景
薬物やアルコール,タバコが青少年に及ぼす影響を理解し,自らの健康管理ができるようになるために,学校における健康教育の重要性が,1990年代末から政府の政策文書で指摘されてきた。また,十代の少女の妊娠が社会問題となっていた。
2. 「健康的な学校」のコンセプト
注N的な学校」とは,子どもたちが力を発揮し学習を達成するための支援において,成功している学校のことと定義される。このような支援は,絶え間なく改善され発展していくものであり,子どもたちの身体的Iな健康を推進する。子どもたちが「健康的」であるように必要事項を教授するのみならず,学校環境・学校文化自体を「健康的」なものに変えていこうという意図がこめられている。
3. National Healthy School Standard
National Healthy School Standardは,教育雇用省(当時)と健康省によって導入された「健康的な学校プログラム」の一端をなしており,各地域における学校を健康的なものにするための教育計画を支援し,教育と健康を結びつけた活動を展開するための指針を示したものである。内容は三部に分かれており,「第1部 パートナーシップ」「第2部 プログラムのマネージメント」「第3部 学校とともに進める活動」について,取り組むべき具体的な課題と構成要素が記されている。
4. NHSSとPSHEとの関連
学校全体の取り組み(Whole School Approach)としてNHSSに基づく教育活動を行う特定テーマのひとつがPSHEである。PSHEの学習成果は,地域の健康教育計画においてNHSSの観点から評価される。学校生活のあらゆる側面が子どもたちの人格的・社会的な発達に影響を及ぼすとみなされ,子どもたちが力を発揮できる学習を保障する必要性が指摘されている。