抄録
研究の目的
人類は,「大量生産・大量消費」の生活スタイルを確立し,経済発展してきた結果、現代の日本では,環境破壊,貧困格差,過労死などの多くの課題を掲げている。これらは世界に共通した生活課題であり,その解決の方法の1つとしてEducation for Sustainable Development(ESD)が注目されている。ESDは,環境問題に限定されず、その問題の背景として貧困格差や男女平等などの様々な視点を見据えた,解決方法を見つけることを特徴とする世界的な取り組みである。家庭科は自分自身の生活を見直し,よりよい生活を育むためのスキルと意識を有する教科である。現代社会の問題と関連させ家庭科の学びを捉えることは重要であり,よりよい生活スタイルの創造を目指すことになる。そこで本研究では、小学校でこれら多様な視点を見据え持続可能な生活スタイルの創造をめざしたESDの授業実践を行い,児童がどのようなESDの視点に気付くことができるのかを分析することとした。
研究の方法
授業対象者は東京の国立大学附属小学校5年生であり,授業の実施時期は2009年1月と2009年12月である。これらの授業実践におけるワークシート,授業を記録した映像を基に児童がどのような学びをしたのかについて分析を行った。
成果と課題
2009年実践では,児童の実態を踏まえお店で行っている環境にやさしい取り組みについて考えさせることにし,第1次では導入,第2次ではグループ毎にお店の取り組みを考え,第3次では,環境にやさしい取り組みを発表し話し合った。児童は学習前に,環境にやさしい商品として,「エコバック」や「詰め替え商品」「電化製品」「再生紙」「包装材」をあげ,資源を多く使わないことを環境への負荷が少ないと考えていることが分かった。グループで考えたテーマは,「電気」5,「包装材」3,「地産地消」「ごみ」各1であった。「電気」と「包装材」は,具体的な方法を増やすことができた。「地産地消」「ごみ」の視点が新たに増えた。この学習を通して,児童はエネルギーを大切にすることがよいという意識を強く持つようになった。しかし,お店の設備は環境に配慮されているかは,児童の生活に密着したものではなかった。家庭科では児童の生活に密着した学びを重要視しているため,自分の生活に直接影響する商品に注目させる必要があることが明らかとなった。そこで、2010年実践は,2009年実践での結果をもとに改善し教材を「環境にやさしい商品」に変えたこと,スーパーマーケット見学を取り入れた。授業の流れは,第1次は自分の買い物を思い出し環境にやさしい商品について考え,第2次は見学で環境にやさしい商品を探し,店員に質問し, 第3次はグループで環境にやさしい商品を考えた後,学級全体で話し合った。その結果、児童は、学習前に環境にやさしい商品として,「再生紙」「詰め替え商品」「車」「電化製品」「ペットボトル」「袋」をあげたが,どうして環境にやさしいのかという理由は明確でなく,企業が環境に配慮したことを開発の目的としており,商品の売りとしている品物をとらえていた。授業後は自分自身がスーパーマーケットに見学に行き気付いたことから判断するようになった。さらに,視点が商品の輸送方法,商品の廃棄率,商品の売られ方,商品の生産方法などに広がった。2009年実践は「環境にやさしいお店の取り組みを考えよう」では,取り扱っている商品・お店の施設設備の両面から考えられるように,教材を選んだが,児童はお店の施設設備に注目することが多く、生活につながる商品に注目することが少なく、施設設備の具体的な方法を考え,エネルギーを大切にする意識を強く持った。授業実践2では,児童は商品に注目させ、環境への負荷を多角的な視点から判断しようと変化していた。実際の商品から,生産地の比較,訳あり商品の存在に気付き,店員の話から輸送手段と輸送距離との関係販売側の環境への配慮にも気付いた。
家庭科で育みたいESDの視点のためには,貧困撲滅,男女共同参画,持続可能なライフスタイル,持続可能な都市化などについても学習する必要があると考える。本研究では,児童にESDの視点に気付き,視点を増やすことできたが,多面的な視点にまで迫る授業を展開できなかったことは、今後の課題と考える。