抄録
1.目的
子どもたちの生活経験の減少や生活技術の低下が懸念されている。先行研究においても,大学生の衣生活に関する生活的自立ができていないこと,家庭科の学習内容の日常生活における実践が少ないことが指摘されている。
将来,教員として家庭科を教える学生自身の生活に対する意識や生活経験は,家庭科の授業に影響を与えると思われる。これまで大学生の生活実態調査,大学生の現状から家庭科教育の学習内容を検討した研究,大学生の家庭科観や家庭科のイメージに関する研究は数多く行われてきた。しかし,家庭科教員を目指す学生に着目して,生活に関する意識や日常生活の実態を明らかにした研究はほとんど見当たらない。そこで,本研究では,将来,家庭科教員を志望する大学生を対象に,自身や家庭科教師としての生活的自立に関する意識および生活経験の実態を明らかにすることを目的とする。
2.方法
中学校家庭科教員免許取得を目指す大学1年生女子17名を調査対象とした。4月と7月に生活的自立に関する意識調査,11月に家庭科教師としての生活的自立に関する意識調査を行った。生活的自立に関する調査では「得意である」「知っている」「できる」「自分で行いたい」「興味がある」の5観点について,家庭科教師としての意識調査では,家庭科教師として「できることが必要である」「得意であるべきである」「好きであるべきである」「教えることができる」の4観点について調査した。いずれの調査も,具体的な生活行為の項目を設定し,4件法で回答を得た。生活記録調査は,4月上旬から16週間,計112日実施し,生活する上で自分が行ったことについて自由記述で回答を得た。また,補足調査として12月に2名の学生にインタビュー調査を実施した。分析は居住形態に基づいて,自宅群6名,自宅外群11名に分けて,比較・検討を行った。
3.結果および考察
(1)生活的自立に関する意識
生活行為の各項目について,「得意である」「知っている」「できる」の平均値は2.6~2.9であったが,「自分で行いたい」の平均値は4月3.6,7月3.7と高く,生活的自立に向けて意欲が高いことがわかった。また,「自分で行いたい」と「できる」について分散分析を行った結果,「⑤ボタンをつけること」以外の項目すべてで有意差および有意傾向がみられた。「自分で行いたい」という意欲は高いが,「できる」という自信が伴っていないことが明らかになった。
(2)家庭科教師としての生活的自立に関する意識
両群の差はほとんどみられなかった。家庭科教師として「できることが必要である」は,全ての項目で平均値が3.0以上であり,家庭科教師として生活的自立を果たさなければならないと考えていることがわかった。一方,「教えることができる」の平均値は2.2~3.5の間であった。これらの間に統計的有意差がみられ,教えることについて不安を感じていることが推察された。
(3)生活記録調査にみる生活的自立の実態
調理経験では,最も多い学生が338回,最も少ない学生が15回と頻度に大差があった。調理操作は切る,焼く,炒める,茹でるの順に多く,調理操作による両群の差はみられなかった。自宅群で,調理経験が最も多かった学生J(297回)と最も少なかった学生B(22回)にインタビュー調査を行った。その結果,健康に対する関心の度合いが調理経験の頻度と関連していることが明らかになった。
(研究協力者 藤下綾乃(静岡大学教育学部))