抄録
【目的】現代社会においては、人口の構成や社会情勢から、男性も女性も性差で区別されることなく、社会を構成していくことが望まれている。しかし、世代によっては、過去の家長制度や地域ごとの習慣などが残っていて、無意識のうちに男女を区別して考えてしまうことが少なくない。世代によっては、その意識が顕著であり、個人の希望や個性を無視した生き方を強いられることさえあった。若い世代でも男女を区別していることを意識せず、ジェンダー的な考えで行動していることがある。そこで、ジェンダー視点を取り入れた授業実践を行うため、教材開発を行った。本研究は、中学校における家族・保育内容を中心として行った。家族は、新しい家族誕生の場面でどのように考えるのかを検証し、どのように男女を区別しているのかについて考察するための視聴覚教材を開発した。また開発した視聴覚教材を活用した授業の中で、生徒がジェンダー意識に気づき、男女を取り巻く問題について考察できることをねらいとした。
【方法】ある30代の夫婦を事例に、新しい家族を迎え、新しい生活を始めるにあたり、どのような気持ちでいるのか、また出産、育児を通して、生活や家族関係はどのように変化するのか、主に男女の性差に対する考え方、性別による役割などについて追跡した。夫婦自身やその家族が撮影した動画や写真を編集し、視聴覚教材を作成した。この教材を用いて、東京の国立大学属中学校においてそれぞれの生徒の実態に合わせ,指導計画を立て、授業実践を行った。授業の構成は、第1次として、開発したDVDを用いた授業を行い、第2次として、DVDに登場した家族と赤ちゃんをゲストとして教室に迎えて質疑応答を行うものとした。ただし、比較検討のため、1校は、第2次にインタビューDVDを用いた授業を行った。授業分析、評価においては、参与観察や録画データなどを用いた。
【結果・考察】開発した視聴覚教材は、脚色していない家族の生の様子が映し出されているので、表情や雰囲気など自然な感情が生徒に良く伝わった。また、家族ゲストを迎えた授業が効果的であった。教材DVDでみていた家族が目の前に現れたことで、生徒が人ごとでなく、自分のこと・現実のこととして実感を持って学習することができた。今回のように、一つの家族を通して学ぶことで、自分自身について振り返り、じっくり考える機会を与えられた。家庭科における家族や保育内容における教材は、10年以上前に制作されたものが多く、このような現代社会に対応できる視聴覚教材はほとんどなかった。ジェンダー視点を含んだ新たな教材を開発したことには大きな意義があったといえる。この教材を発信し、広く活用できるようにしていけるとよいと考えている。ジェンダーに関して班毎に話し合った結果を発表する授業展開の中で、その発表内容がワークシートの記述内容と異なっていたことが、生徒のワークシートの記述内容とビデオによる授業記録の分析を通して明らかとなった。生徒は学校生活の中で、自分の意見を発表する経験を多く積んできている。それでも発表場面では当たり障りのない内容だけを選んでいたということは、自分の内面をクラス集団の前で発表することに抵抗があるという発達段階にあることがわかった。その背景には、家族という題材の性質上、学級という全体の場でプライベートなことについて触れられることを避けたということだけではなく、生徒は、ジェンダーについて話し合うことは大変デリケートな問題であることを理解しているとも考えられる。今後は、実践を通してさらに検討し、改善することを繰り返し、生徒の実態や時代背景に合わせた授業をさらに開発していきたい。家族ゲストの有効性が検証できたが、父親、母親、赤ちゃんが揃って来てもらえるのはとても貴重なことで、毎回来てもらえるとは限らない。そこで、ゲスト親子の登場した授業の録画記録をもとに、親子の対話場面を中心とした教材を作成するなど、授業展開に合わせた視聴覚教材を作成していくことが課題であるといえる。