抄録
【目的】<BR>2013年に完全実施される高等学校家庭科の新学習指導要領において、家庭基礎と生活デザインでは「共生社会と福祉」の項が「(1)人の一生と家族・家庭及び福祉」のなかに、また家庭総合では「共生社会における家庭や福祉」の項が「(2)子どもや高齢者とのかかわりと福祉」のなかに盛り込まれた。その背景には、少子高齢化の著しい進行に伴い、共生の視点が強く求められたことがある。共生社会の実現に近づけるためには、多様な人々への理解を深めることが考えられ、それを可能にする1つの手段として、社会のなかにユニバーサルデザイン(universal design ;以下UDと略記)が広がることが期待される。<BR>昨年、UDについて考える高等学校家庭科の3時間カリキュラム(試案)とその手引書、資料DVDを作成した。本研究では、この3時間カリキュラムが多様な人々への理解を深めるきっかけとなるかどうか、教育的効果を検討することにある。<BR>【対象者・時期】<BR>東京都内の私立男子高校の2年生224名。授業実施時期は2011年5月から7月である。<BR>【方法】<BR>1時間目「多様性について考えよう」と2・3時間目「UDって何?」の各授業後、生徒に書かせたワークシートの自由記述を用いて、意識の変化を分析した。<BR>【結果】<BR>ワークシートの記述内容の分析から、「多様性について考えよう」の体験授業(対象校の場合は、手指、視覚機能障がいを体験)において、生徒は身体機能の低下状態を実感することで多様な人々の日常生活を想像し、社会の中に身体低下を支援するようなシステムが広がることを願い、さらに、十分に役割を果たしていることを当然のように受け止めていた自身の身体機能について、その精微さを見直す記述が多くみられた。<BR>「UDって何?」の授業では、「UDという言葉から想像するものを挙げなさい」という授業前アンケートで生徒が記述しなかったUD製品を可能な限り紹介し、実際に生徒に触れさせ、各製品にどのような配慮がなされているかをグループで話し合わせ、最後に各グループの考えをクラスで交流させた。生徒は自分たちの生活のなかにUD製品があふれていることに驚き、これまでUDに無関心であったこと、また身体機能が低下していない自分たちもUDの恩恵を受けていたことに気づく記述が多くみられた。また、「万一自分が障がいを持ったら」と当事者意識を持つ記述や、これまで怪我などで一時的障がい者になった時に、公共施設や交通機関のUD製品・サービスを利用したことを思い出す記述もあり、UDのコンセプトの1つである「より多くの人に」のなかに、障がい者、高齢者、子どもだけでなく、自分たち高校生も含まれていることに気づけたようであった。さまざまなUD製品を教室へ持ち込んだことや、公共設備・サービスなどの実際について、DVDを用いて視覚に訴える工夫をしたことが効果的であった。<BR>さらに、記述内容には「よりよい製品やサービスが広がるためには、消費者が企業に意見を述べるなど、社会を変えていくような姿勢が自分たちに必要だ」「よりよい社会は自分たち若い人々がつくっていかなければならない」など、将来に向けて主体的に社会生活を営もうとする様子も伺え、一連の検証授業に基づくと本カリキュラムの目的は概ね達成できたといえる。<BR>一方、外見ではわからない、病気などの内部障がいを持つ人や、妊娠している女性についての記述はなく、これらの人について授業で十分扱えなかったことが明らかとなった。<BR>今後の課題として、体験授業の手引書のさらなる検討と、異なった履修属性の生徒に対する本カリキュラムについての追加評価が必要と考えている。