抄録
背景と目的
ESD(Education for Sustainable Development)は、現代の重要な教育課題のひとつである。2005年には「国連持続可能な開発のための教育の10年」が始まり、家庭科においても、ESDに関する授業実践が報告されつつある。他方で、過去の家庭科の実践事例においてもESDと考えられる授業内容は存在しており、元来、家庭科教育はESDの要素を備えていると考えられる。しかし、過去の実践はESDの概念を意識したものではなく、ESDとしての家庭科実践を評価する指標も明確ではない。さらに国立教育政策研究所の報告書「学校における持続可能な発展のための教育(ESD)に関する研究」(2012)には、ESDの構成概念として、多様性、相互性、有限性、公平性、連携性、責任性の6項目があげられているものの、家庭科の実践を評価する上で適切とは言えず、検討・整理する必要がある。
そこで本研究では、ESDに関連した文献資料および家庭科実践報告・研究の分析を通して、その構成概念を明らかにすることを目的とする。これにより、家庭科における実践の蓄積と評価が可能となり、家庭科ならではのESDの実態を把握することへとつながる。また、家庭科の独自性や課題について検討する基盤ともなり、今後の家庭科カリキュラム作りの指針となることが期待できる。
研究方法
1)関連文献および各領域の授業実践の収集・分析
全教科の授業実践の報告や研究論文の中からESDを扱ったものを収集し、概要を把握した。その後、家庭科の実践事例に対象を絞り、領域ごとに授業内容の特徴を短文形式でまとめた。領域は、「家族・家庭経営」、「保育・高齢者福祉」、「消費」、「食生活」、「衣生活」、「住生活」、「環境」の7領域とした。
2)家庭科実践キーワードの抽出・分類・整理
各領域の授業内容についてまとめた短文をもとに、ESDとしての家庭科の実践キーワードを抽出し、付箋に記入して、キーワードの分類・整理を行った。
3)構成概念の整理および概念図の作成
先述した国立教育政策研究所の報告書に示されている、「持続可能な社会づくりの構成概念例」の6項目と分類・整理されたキーワードとの比較を行い、家庭科におけるESDの構成概念の整理を行い、概念図(案)としてまとめた。また構成概念に対応させて、家庭科の実践キーワードの代表的なものを位置づけ、家庭科におけるESDの構成概念と実践との関係を検討した。
結果および考察
1)家庭科の領域ごとの授業実践分析から、全領域においてESDの要素を持つ授業内容が確認され、実践キーワードを抽出することができた。
2)国立教育政策研究所が提示した6つの構成概念(多様性、相互性、有限性、公平性、連携性、責任性)をもとに、家庭科におけるESDの構成概念を整理した結果、「(多様な)生活文化」、「環境(エコロジー)」、「人権(安心・安全)」、「地域(つながり・かかわり)」、「ライフスタイルの変革(創造・転換)」の5つの概念を提示することができた。
3)上記の構成概念は、ESDとしての家庭科のカリキュラムを作成するにあたり、指針となると考えられる。今後はこの構成概念を精査するとともに、概念に基づいて家庭科における実践事例をさらに分析し、授業の実践事例を提案する計画である。これらの研究により、ESDとしての家庭科実践の充実・発展に寄与していきたい。
補注:本研究は、日本家庭科教育学会平成24年度課題研究WG「ESDとしての家庭科教育の可能性と役割」の活動の一環として行っている。