抄録
【目的】
家庭科では、主体的な生活者の育成を目指した学習指導の工夫が必要である。主体的な生活者を育成するためには、単に基礎的・基本的な知識や技能を身に付けるだけではなく、身に付けた力を生かして、社会に働きかける(自ら家庭生活や地域社会などをよりよくしようと創意工夫する)力を身に付けることが必要であると考える。そのためには、生活と社会をつなぐ環境や消費といった視点で物事を考え、選択したり判断したりすることができるような題材を設定する必要がある。その際、2002年に“持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグサミット)”でわが国が提案した持続発展教育(ESD:Education for Sustainable Development)(以下ESD)で重視する力を育むような学習指導を取り入れることが、主体的な生活者の育成につながるということを明らかにすることを目的とする。
そこで、授業テーマ「共によりよく生きるために~わたしたちの提案するご飯とみそ汁~」を設定した。
【方法】
2012年鹿児島大学教育学部附属小学校6年生児童152名(男児76名、女児78名)を対象に、ESDで重視する力を育むと考えられる次のような学習指導を取り入れた題材について授業を行う。①和食、フードマイレージ、地産地消、地域活性化、核家族化、伝統の継承、家庭生活の多忙化、社会参画などの視点から、環境・消費教育を行う。②メリット・デメリットの両方から考えをもたせる。③専門家による話や実体験を取り入れる。④様々な立場(性別、年齢、障がいなど)から考えさせる。⑤解決して終わりではなく、次の課題を明確に持たせるところまで扱う。
また、授業前後の質問紙による意識調査や、学習中の児童の発言や記録を視聴覚機器のテープとビデオに記録し、分析をする。
【結果と考察】
1.授業開発ならびに授業実践―「共によりよく生きるために~わたしたちの提案するご飯とみそ汁~」
授業テーマ「共によりよく生きるために~わたしたちの提案するご飯とみそ汁~」を行った。問題把握、計画・調査、評価、再調査、結果のまとめ、計画、実行、新たな問題提起などの学習計画で、12時間で行った。その際、環境、地産地消、栄養など、調べたいテーマごとにグループで学習を展開していった。
授業及び指導に関する効果を探るため、事前意識調査と事後意識調査を行った。その結果、大きな違いがあったのは社会参画意識である。中でも,社会参画意欲(「将来社会参画を積極的に行いたい」など)や社会参画への効力感(「小学生でも社会をよくしていけると思う」など)の項目において,違いが見られた。これは,基礎的・基本的な学習だけではなく,身に付けたことを環境や消費といった複数の視点からとらえさせる学習内容を設定したり,社会に向けて実際に自分たちの提案を発信させたりしたことが影響していると考えられる。また,意思決定過程に基づいて学習を展開させることによって,自分たちが保持することのできる生活資源に応じた創意工夫をすることができるようになったと考えられる。
2.学習中の児童の発言や記録について
以下①~⑦は、国立教育政策研究所から出されたESDで重視する能力・態度を参考にし、本校独自に再設定したものである。本校独自に設定し、この視点から授業及び児童の発言・記録を分析した。発言回数,他者との意見交流回数,考える視点の数,発言内容などから分析を行った。
①批判的に考える力、②未来像を予測して計画を立てる力、③多面的、総合的に考える力、④コミュニケーションを行う力、⑤進んで参加しようとする、⑥他者と協力しようとする、⑦つながりを尊重しようとする
①~⑦について、物事を総合的かつ客観的に考え判断しようとする姿が見られるようになった。また、他者と積極的に関わったり互いの意見を尊重しながら考えを高め合ったりする姿が見られるようになった。自分たちの置かれた状況を複数の視点から把握し判断するようになったことや,積極的に人や社会とつながり協力してよりよい工夫を見出していこうとするようになったことは,主体的な生活者になるための大きな成果である。