抄録
【目的】大学生を対象にした洗濯に関するアンケートから,「シャツ、ブラウス、体操服を着用の都度洗濯しない(約40%)」、「肌着を毎日洗濯しない(約4%)」など洗濯を頻繁にしない傾向が見受けられ、小中学校で学ぶ「着用後の衣服は吸水性、通気性、保温性などの性能が低下する」という知識があまり身についていないこともわかった。この理由として,一度の着用で実感するほど性能が低下しないことや,学習内容を家庭生活で実践する機会がこれまで少なかったことが考えられる。そこで,小中学校家庭科の授業で活用することにより,児童生徒の知識の定着を目指す被服実験を試みた。汚れによる布の吸水性変化について,日常生活で手に入れやすい材料を用いて,視覚的に結果がわかりやすく,準備や操作が比較的簡単な実験方法と,定常的な結果が得られる試料布の調製方法を検討した。
【方法】1.試料布:平織物の綿(金巾3号)(日本規格協会,JIS染色堅牢度試験用添付白布),綿(ブロード40番)(色染社),綿(EMPA 211)(日本資材),綿(EMPA 101標準汚染布,EMPA 211にカーボンブラックとオリーブ油をつけたもの)(日本資材)およびポリエステル(日本規格協会,JIS染色堅牢度試験用添付白布,PET)を用いた。2.汚染布:水性インクとしょうゆを用いて試料布を汚染した。3.布の吸水速度測定:JIS法に基づくバイレック法でおこない,10分後の水の吸い上げ高さを測定したが,必要に応じて試料布に0.5 cm 間隔の印をつけ,経時変化を記録した。4.試料布の色調:分光式色彩計SE2000(日本電色(株))で測定した。
【結果】1.試料布の準備:布の吸水速度測定において,のり抜きは必ず必要であり,比較する各試料布は布の構造や布目の方向を統一する必要があることが確認された。汚れた布との差を大きくするためには,白布はできるだけ吸水速度の速い布が好ましいが,それには綿(金巾)が適することがわかった。2.汚れの種類:汚れによる布の吸水性変化を調べるために,インクまたはしょうゆを水で2倍に希釈した溶液に綿布(金巾,ヨコ方向)を浸漬して汚れた布を調製した。水の吸い上げ高さは白布(9.4 cm)に比べて,インク汚れ布(4.6 cm),しょうゆ汚れ布(5.3 cm)とも低くなり,汚れにより布の吸水性が低下することがわかったが,インクの方が扱いやすかった。3.汚れの濃度:綿(金巾)に種々の濃度のインク溶液をつけた一連の試料布で吸水性の比較をおこなったところ,インク濃度が高くなるほど吸水性が低下した。インク濃度が高い方が白布との差が大きくてわかりやすいが,溶液調製でメスシリンダーの目盛が見にくいこと,浸染した試料布が乾燥しにくいこと,試料布の色が濃くて吸水実験で吸い上げ高さが見にくいこと,吸水実験時にインクが水中に溶け出し,吸い上げ高さに影響する可能性があること,節約の観点などから,「多少の実験誤差が生じても明らかに白布の方が吸水性がよい」という結果が得られ,教師が汚染布を調製しやすく,児童・生徒が測定しやすい条件として,インク濃度は4倍希釈(インク:水 = 1:3)が適当であると結論づけた。この条件で水の吸い上げ高さは白布が9.4 cm,インク汚れが5.9 cmとなった。白布とインク汚れをつけた布で,10分後までの水の吸い上げ高さの経時変化を調べたところ,いずれも立ち上がりが急勾配で,布が水に触れた瞬間に素早い吸水が起こるが,1分後から次第に緩慢になった。この傾向は汚れた布で顕著で,両者の差は時間が経つほど大きくなった。4.市販の人工汚染布の利用:EMPA 101標準汚染布(汚垢成分:カーボンブラック/オリーブ油)とその汚染前であるEMPA 211,さらにEMPA 211にインク汚れをつけた布(インク濃度:4倍希釈)の吸水速度を比較したところ,白布に比べて,標準汚染布もインク汚れ布と同程度吸い上げ高さが低くなり,汚染布を作成しなくても市販の汚染布も利用できることがわかった。