抄録
目的
現行学習指導要領解説では、「進んで生活を工夫し創造する」技術・家庭科の目標を達成するために、「生活者としての自覚をもち、日常生活の中から課題を見出し、解決を目指す活動を通して学習を深めていく」ことが明示されている。つまりは、「問題解決的な学習」を通して、「進んで生活を工夫し創造する」能力の育成を図ると言い換えられる。家庭分野における問題解決的な学習論として、荒井(2009,2013)の「実践的推論プロセス」が著名である。この理論は、丁寧に道筋を設計し、「何が問題か」を重視するという特徴が示されている。この理論を援用した実践を通じて、認知方略向上の側面からの有用性は確認されている(福田,2010)。だが、学習時における認知過程には着目されておらず、具体的な指導方略については課題が残っている。村田ら(2015)は、「実践的推論プロセス」を援用した実践を通して、生徒の「問題発見」段階の認知過程に着目し、「問題」の認識について明らかにした。そして、最終的な問題解決後の姿をイメージする「目標設定」の欠如により、「問題」を捉えにくい可能性を示唆した。そこで、本研究では、「目標設定」を追加した「修正版実践的推論プロセス」に基づいた実践を通して、問題発見段階における生徒の認知過程を明らかにすることを目的とする。
方法
荒井(2009,2013)の「実践的推論プロセス」を援用した実践(実践A)と「目標設定」を追加した「修正版実践的推論プロセス」に基づいた実践(実践B)とを比較し、「問題発見」段階における生徒の認知過程の差異を分析する。
実践A:H大学附属中学校2年生88名を対象。実施時期は、2015年7月。消費領域について教科書に沿って学習したのち、開発したワークシート(現状分析、問題特定、解決方法の検討、の3プロセス)に取り組ませた。
実践B:O府S市立中学校2年生105名を対象。実施時期は、2016年3月。実践A同様、消費領域について教科書に沿って学習したのち、開発したワークシート(現状分析、目標設定、問題特定、解決方法の検討)に取り組ませた。なお、実践Bでは、「問題」を「現状と目標との差異(ギャップ)」と構造的に認識させた上で特定させている。
実践A・Bともに、得られた記述を質的に分析し、認知過程の検討を行う。
結果
実践Aでは、特定した「問題」と「解決方法」の間で、論理的に不整合な記述が見られた。一方、実践Bでは、「問題」と「解決方法」の間において、論理的に記述することができていた。
つまり、「現況分析」から直接「問題」を特定させるのではなく、「問題」を構造的に認識させた上で特定させることにより、論理性が一貫して維持されることが示唆された。 今後は、消費者トラブル(D領域)だけでなく、A~C領域における「問題発見」段階における認知過程を把握し、修正版「実践的推論プロセス」の汎用性を検証していく。
引用文献
文部科学省(2008)学習指導要領解説技術・家庭編,ぎょうせい
荒井紀子編(2009)新しい問題解決学習 Plan Do Seeから批判的リテラシーの学びへ,教育図書
荒井紀子編(2013)生活主体を育む 探究する力をつける家庭科,ドメス出版
福田恵子(2010) 家庭科教育における問題解決学習の課題と学習方略 : 学習の転移に着目した問題解決プロセスの構造分析,日本家庭科教育学会誌,53(2), 71-81
村田晋太朗、永田智子、相川美和子(2015) 「問題を見つける」段階における生徒の認知特性 中学校家庭分野消費生活領域における実践を通して, 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集第58回大会・2015例会