日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第59回大会・2016例会
セッションID: B3-4
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第59回大会:口頭発表
家庭科の授業実践と,現実の世界にいる生徒とのかかわり
クリティカル・リアリズムをてがかりにした家庭科の授業実践の分析
*大西 友恵
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抄録
【目的】
著者は,近年の家庭科の授業の実践研究について,学習指導要領において求められていることの達成と実際の授業方法という二者への注目によって展開される授業研究が多く,このような授業実践研究について検討する余地があるのではないかと考える。そこで本研究では,二者にのみ注目して展開される授業として,著者自身が過去に実施した中学校家庭科における被服製作授業の実践研究を事例として示す。さらに,クリティカル・リアリズム(以下,CR)の視点から同事例を分析し,「授業実践」を「学習指導要領」と「学習者の生きる世界」との相互作用の中に位置付ける可能性を提示することを目的とする。
CRとは,英国の哲学者バスカー(Roy Bhasker,1944-2014)によって創られた科学哲学である。バスカーは,従来の「どのようにして知識が可能になるのか」という認識論的な問いに対し,「一体,社会ならびに人々は,それらが知識にとって可能な対象となるようなどのような性質を持っているのか」という存在論的な問いを立て,この世界は構造化されており,差異化しており,階層化しており,そして変化するということをCRの出発点とした1)。CR研究者のダナーマーク(Berth Danermark,1951-)は,知を生み出すメカニズムについて,「概念・知識」「実践」「世界」という三者が互いにかかわり合い,そこから新たな知が生成されると述べている2)。本研究では,この「概念・知識」「実践」「世界」を,「学習指導要領」「授業実践」「学習者の生きる世界」に置き換え,三者のかかわりを授業実践の分析視点とする。  

【方法】
(1) 2008~2010年に徳島県内の二つの公立中学校(A中学およびB中学とする)2学年を対象に実施した家庭科における被服製作の授業実践を事例研究として示す。この被服製作の授業では,生徒にとって身近な衣類から資源の大切さを学んでもらうため,各家庭にある不要な布を用いたリサイクル作品を製作することにし,教材には家庭生活の中で利用できるスリッパを選んだ。尚,授業実践を行うにあたり,対象の生徒には事前と事後にアンケート調査を実施したので,その結果を提示する。
(2) CR理論を基に,アンケート調査の結果を分析する。
(3) 分析結果を踏まえて,事例と同様(不要な布で何か作る)の授業を展開するならば,どのような授業が展開できるのかについて考察を試みる。  

【結果】
(1) 本授業実践においては,環境(とりわけリサイクルに関する)をテーマとする授業と被服製作の授業をかかわらせた。アンケート結果から,複数の単元をかかわらせて関連付けを図ることの重要性が見出された。また,この実践事例では,学習指導要領を重視した授業を展開したこともわかった。
(2) CRを基に,「学習指導要領」「授業実践」「学習者の生きる世界」の三者のかかわりを授業実践の分析視点とすると,本事例では,学習者の生きる世界と授業実践をどうかかわらせるかは,授業外のこととして学習者に任されていたことがわかった。単元のかかわらせ方や教材選びは教師が決定していたが,学習者の生きる世界を重視するのであれば,授業内で学習者と共に単元間のかかわりを考え,教材を選ぶことが必要であると思われる。
(3) (1)と(2)の結果を踏まえて,学習者の生きる世界のコンテクストを,授業実践の内容や学習指導要領に示されたねらい等とかかわらせることができるような授業展開について検討した。本発表においては,授業のアウトラインを提示する。  

参考文献 
1) バース・ダナーマーク,マッツ・エクストローム,リセロッテ・ヤコブセン,ジャン・Ch.カールソン著,佐藤春吉監訳,(2015) 『社会を説明する-批判的実在論による社会科学論』,ナカニシヤ書店,京都
2) 同上, p.49

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