抄録
【目的】平成13-15年に実施された家庭生活に関する全国調査結果によると、小学6年生の79%程度が洗濯機での洗濯を「しない」または「あまりしない」と回答し、洗濯機による洗濯を「上手になりたい」と回答した児童はわずか27%程度と示されている。この調査から約13年経過した現在、少子高齢化、女性の社会進出、富裕層における早期教育の低年齢化、家庭生活の情報化など子どもたちを取り巻く状況は著しく変化し、お手伝いへの関心は低下しているものと推察される。一方、実験・実習は、児童の生活自立を支え、脳の働きと関係が極めて高いとされる手先の巧緻性を高める場、実物と対面する場として、その教育的意義について関心が寄せられている。手洗いの特徴は、電気や設備不要、機械力を細やかに変化可、他の衣料に影響を与えない、1点洗いが容易などであり、旅行・育児・介護・災害時・野外活動など一生にわたって活用の場は多い。 小学校手入れ領域においては、手入れの必要性や役割を明確にしつつ、手洗いに関する知識や技能を向上させる学習は極めて重要である。これまで、手洗い実習においては靴下や体育着などが被洗物として多く取り上げられ、実践報告も多い。しかしながら、冒頭の「洗濯機洗い」の実践度や興味関心の実態を踏まえると、洗濯機洗いより一層手間のかかる「手洗い」への児童の関心は十分とはいえず、改善の余地が多いものと考えた。また、児童に洗濯条件の違いによる汚れ落ちの評価を安定にさせるためには、被洗物の統一的な状態管理・洗濯処理条件の管理・評価方法の計画等がポイントとなるが、実際には非常に難しい。そこで、本研究では、学習者に対して、手洗い習慣の定着化および手洗いの特徴への興味関心喚起を目的として、児童用油汚れ汚染布を用いた実験教材の開発と自由洗濯実習を組み合わせた実践を行い、その教育的意義や可能性、課題等の検証を行うことを目的とした。
【方法】教材開発にあたり、洗剤、試料、油脂モデル物質、洗浄方法、評価方法などの検討を行った。その結果、洗剤液として、市販ミヨシマルセル石鹸(0.5%)水溶液10mlを、試料として、綿100%スムース50mm角を、油汚れのモデル物質として、オレイン酸(95%)/ステアリン酸(5%)混合脂肪酸にOil Yellow AB(0.15%)混合物を選定し、室温にて2分間のつまみ洗いの条件を決定した。それらの結果をもとに、「手洗い」と「機械洗い」の汚れ落ちの違いを比較する実験教材を開発した。用具・実験書・指導案・指導展開案の検討も合わせて行った。S大学附属N小学校6学年を対象とした検証を行った。自由洗濯実習における被洗物は、①家族のために洗ってあげたい小物②総合的な学習として学級全体で取り組んでいる焼き物を包む個人用タオルであった。指導効果や有効性は、授業前後における児童の意識・実践の変容から分析を行った。
【結果】開発した児童用汚染布は目視であっても、「機械洗い」と「手洗い」の洗浄条件の違いによる汚れ落ちの差を再現良く判定できることが明らかとなった。そこで、学習者に期待する教育効果や所要時間操作の難易性等を検討した結果、同一汚染布の一定条件での機械洗い後の洗浄布は教師が準備し、児童には手洗いを個別に行わせ、「手洗い」と「機械洗い」の違いによる汚れ落ちの差を目視で比較させる実験教材を完成させた。授業前後に実施したアンケート調査の分析結果、特定洗濯物(バターをつけてしまったTシャツ、トマトジュースをつけてしまったTシャツ)における「機械洗い」と「手洗い」の選択において、授業後は、意識および実践のいずれに関しても、いずれの洗濯物に対する対処選択も「機械洗い」が減少し、「手洗い」が増大する傾向が得られた。しかしながら、児童の個々の家庭内での実践意欲の高まりがまだ十分とは言えず、今後の課題として残った。(本研究は、村松春美さんおよび大庭詩央里さんの卒業研究をもとに再構成したものであり、その協力に深く感謝する。本実践において授業者として助言・協力いただいた白鳥怜奈さんに深く感謝する。)