抄録
1 問題と目的
民間企業が首都圏の小学生を持つ母親を対象に行った調査(2015年実施)によれば、我が子が包丁でりんごの皮をむくことが「できる」とした回答は小学5年で10.1%、小学6年で24.6%と、小5で約90%、小6で約75%の児童が「できない」と認識されていることが分かった。これは20年前の同じ調査の「できる」47.9%(小5)、74.3%(小6)を大幅に下回る結果となった。
さらに、家庭で皮むきを「やらせたことがない」は52.7%(小5)、
45.9%(小6)であり、20年前の29.2%(小5)、10.3%(小6)と比較すると、小5で約2倍、小6で約4。5倍の増加となっている。
家庭において、児童の皮むき技能の低下が認識されながらも、それを家庭で補おうとする保護者の意識は激減しているといえる。このことは、調理技能の習熟を家庭での練習に任せてきた家庭科の在り方を見直す必要性があることを示している。河村(2014)によれば、包丁技能は、「生徒にとって料理ができると実感する重要な技能」である。中でも皮をむく技能は練習を要するため、家庭科の授業の中で児童の実態に応じた指導法による確かな習得が求められる。
そこで本研究では、小学校家庭科授業の中で、包丁による皮むきの技能を効率的に習得させるために、先行研究を参考に考案した指導方法を用いて授業を行うことによって、その指導方法の効果を検証することを目的とした。
2 研究方法
対象:公立小学校5年101名(男子45名,女子56名)
調査時期:2016年9月12日~9月30日
調査内容:<調査1>小学4年までの皮むき体験の質問紙調査
<調査2>梨を用いて自作のビデオ教材と指導法を使って授業し、事前と事後の皮むき動作及びその結果をビデオ記録により分析。
<調査3>児童の皮むきに対する自信に関する授業前後の質問紙調査。なお授業は3回行い、1回目の実施後指導案を横山弘美主幹教諭(家庭科)と共に改善し、残り2回は同じ指導案を基に行った
3 結果と考察
4年生までに皮むきの経験が「ある」者は61%(男子60%、女子63%)、「無い」は31%(男子36%、女子27%)、無回答8%であり、男女差は無かった。また、皮むきに「とても自信がある」者は8名(男子5名、女子3名)、「少しある」は34名(男子10名、女子24名)。「全く自信がない」者は31名(男子16名、女子5名)であり、自信については、女子の方がわずかに高かった。
本研究では、皮むきが「できる」を文部科学省の実技調査(平成19年)に倣い「適切に左右の手を連動させて行うことができた」ことと定義して行った。考案した指導方法とは、皮むきの教材として梨(一人1/4個)を用いること、初めに教師の皮むきを観察させて、左右の手の動きと包丁の傾きとに着目させること、その後その動作をビデオで大きく写して確認させること、さらに梨1/4個を2㎝幅に横に切断させ、向き初めの位置に皮と平行に1㎝ほどの切り込みを入れさせて、そこに包丁を差し込ませてからむかせることである。
授業は、1回目のクラス(34名)では、自信のある28名には自由に皮むきをさせ、不安な6名のみに指導法を行った。結果、「できた」児童は28名中4名。不安な児童6名は全員が「できた」。
そこで、指導案を改善し、残り2回のクラスは、全員を対象に自作のビデオ教材と指導法とで授業を行った。結果、どちらのクラスともに全員が「できる」状態となった。しかし、2回目のクラスでは、包丁の持ち方が「むく」と「切る」とでは異なることが理解できていない児童が観察された。そこで、3回目のクラスでは、包丁の持ち方を全員が正しく持てているかを確認した後に前述の指導方法を行うこととした。また、左利きの児童への配慮も丁寧に行った。
結果、3回目のクラスでは、2回目のクラスに比べて5分間早く全員が皮をむき終えることができた。
皮むきに対する心配の有無についての質問紙調査では、心配が「とてもある」児童は1回目のクラスでは事前2名であったが事後0名に、2回目では事前3名が事後0名に、3回目では事前3名が事後0名となった。また、心配が「全く・あまり無い」児童は、1回目の事前21名が事後27名に、2回目の16名が30名、3回目の21名が24名となり、自信を持たせる効果を上げたことが示された。