日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
第60回大会/2017年例会
セッションID: P26
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第60回大会:ポスター発表
ブリティッシュコロンビア州のカリキュラム改革と家庭科教育
「応用技能」からADSTへ
渡瀬 典子
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抄録
【目的】 技術革新や急激な社会変化を背景に,学校教育の意義・役割に関する様々な議論・検証が国内外で試みられてきた。本報告の対象であるカナダのブリティッシュコロンビア州(以下,BC州と記載)は,2002年から2年間かけて同州の「児童・生徒が身に付けるべき能力」の具体を大規模調査で抽出し,州のカリキュラムに反映させるべく教育改革をしてきた。そして,このカリキュラム施行から10年余が経過し,2016年度から新たな枠組みによる初等教育カリキュラム,そして2018年度には中等教育において新カリキュラムの完全施行を目指す改革が進められている。
 カナダでは州ごとに教育制度が構築されている。同州の家庭科教育は,2007年のカリキュラム改訂(2008年9月から施行)で,Applied Skills(以下,「応用技能」と記載)の選択科目としてGrade8-12に置かれた(渡瀬 2009)。現在,BC州のカリキュラムは移行期にあり,先述した2007年改訂カリキュラムとは異なる状況になりつつある。
 そこで,本報告は(1)BC州の新カリキュラムにおいて,履修時期・開講科目の面で家庭科教育がどのように変わった/変わらなかったか,(2)能力論との連動の中で,家庭科教育がどのように位置づけられたかに注目する。以上の検討を踏まえ,BC州の家庭科におけるカリキュラム改訂の特徴を明らかにすること目的とする。
【方法】 分析にあたり,以下の文献資料(1)~(3)を用いる。(1)BC州のカリキュラム改訂に関する教育省文書,(2) カリキュラムの考え方について具体化を担うIntegrated Resource Packages(以下,IRPと記載)『Home Economics』と補足資料(2004),(3)『Applied design, skills, and technology』(2016)
【結果】 家庭科を含む旧カリキュラム「応用技能」は,新カリキュラムにおいて「Applied design, skills, and technology(以下,ADSTと記載)」に名称変更された。名称変更の理由として「この学習の範域・本質をより適切に捉えるため」としている。これまでのカリキュラムと比べて履修時期・開講科目の面で大きく異なるのは,ADSTが初等教育(K-7)でも位置づけられたことが挙げられる。家庭科関連科目ではGrade6-7で「Food studies」と「Textiles」が開設され,初等教育でも家庭科の学習機会が設定された。また,ADSTでは「基礎(K-Grade5)探究(Grade6-9)専門化(Grade10-12)」という系統性を意識し,上述の2科目はGrade12まで設定されている。家庭科に関するその他の科目・領域の履修時期は,「家族」に関する学習(Grade10・11),「保育」,「住居」に関する学習(Grade12)で,旧カリキュラムの「応用技能」と比べて履修時期が限定されている。また,学習方法の特徴には,「ものづくりなどの直接体験」の重視,コミュニティとのつながりを意識した学習場面,(職業キャリア形成につながる)資格取得が挙げられている。
 新カリキュラムでは「思考・コミュニケーション・個人/社会」に関わる能力を「核となる能力(Core Competencies)」に置き,全教科の学習から能力育成を目指している。また,カリキュラムモデルとして「Know-Do-Understandモデル」を提示し,各科目の能力目標の具体化が図られている。旧カリキュラムの「応用技能」とADSTの家庭科関連科目を比較すると,ADSTでは「技術習得」の視点以外に,生活行為がもたらすライフサイクルへの影響・社会(人・環境)への配慮の視点が鮮明である。また,BC州の先住民文化の学習内容が新たに組み込まれている。BC州の教育改革に現れる方向性は,日本の学習指導要領改訂の考え方にも共通する箇所があり,今後の日本の家庭科教育を考えるうえでもその動向に注目していきたい。
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© 2017 日本家庭科教育学会
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